つながること自体が目的であるような瞬発的で定型的なやりとりは、複雑な事柄、繊細な感情、微妙な感覚、曖昧な事情に対して、理解を積み上げる習慣を失わせるところがあるとタークルは考えました。スマホによって自分や他人の情動や感覚についての理解力が落ちていくとの前述の指摘を考慮すれば、タークルの指摘には説得力があります。

心の傷、誰かの痛みを理解する仕組み

似たことを、社会的感情について研究した神経科学者のメアリー・ヘレン・イモディノ=ヤンやハンナ・ダマシオらの研究グループが論じています。

この研究は苦痛の経験に関わる神経回路を調べたものです。身体的苦痛に関する回路が基本になっていて、それを転用する形で精神的な苦痛が経験されている、また、自分の苦痛に関する回路を転用することで、他者の苦痛を感じ取っている、などといった可能性が指摘されています。

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ちょっとわかりにくいですが、ダマシオらが読み取った含意は単純です。自分の身体的苦痛の情報処理が最も迅速なのに対して、自分の精神的苦痛の情報処理は、いくらか時間を要する、さらに、他者の苦痛に関する情報処理は、それよりも時間を要するようだということです。

ダマシオらの研究からも、自分の心の傷や、誰かの痛み(特に精神的苦痛)を理解することは、決してインスタントに済みそうにないことがわかります。

「内省的処理」はすぐにはできない

実際に、この論文の考察パートを見てみると、そこには、「他者の心理状況に対する情動が誘発・経験されるために」文化的・社会的コンテクストについての「内省的処理にさらに時間が必要かもしれない」との指摘があります。

他者の心理状態について何かを経験することは、一定の「思考」(=内省的処理)を要するもので、それは決して「即時」には済まないと示唆されているのです。

言われてみれば当たり前のことです。例えば、ヤマシタトモコさんの『違国日記』という漫画には、自分の恋愛への感覚が、世間的な「普通」とは違うと知りつつある高校生が、昔からの親友に異性愛を前提とした恋愛話を振られたときに、話題を逸らしたり、丁寧語を用いたり、突っぱねたりしながら、その話題を終わらせるシーンがあります。その途中で、この子は、表情を真顔のまま一瞬固めたり、言葉に詰まったりすることもあります。