香織さんが他に好きな人ができたことを打ち明けると、「そいつの目の前で殺してやる。調べるのは簡単だ。お前の大切な奴を全部殺すからな」と脅された。

「オレにもチャンスをくれ。期間限定でいい。1~3カ月でもいい。オレが変わったところを見てほしい」

 ここまで言われれば、仕方ない。香織さんは関の要求を飲むことにした。

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「オレを殺すか、ヨリを戻すかだ」

 ところが、その後も関の執拗な脅迫は続いた。

「元に戻るか、オレを殺すか、どっちかにしろ。二択だよ」

「えっ」

「お前の大切な奴を殺すのが三択目だよ」

 関は「不法滞在の中国人に頼めば、殺しなんかいくらでも引き受けてくれる」とか、「すでにお前の家の住所は教えてある。あとは電話するだけだ」などと言って脅した。

「それだけはやめて!」

「それならオレを殺すか、ヨリを戻すかだ」

 香織さんは関にカッターナイフを手渡された。

写真はイメージ ©getty

「戻れないなら、オレを殺せよ。正当防衛で4~5年で出て来られるぞ」

「それはできない。私が死ねば解決するの?」

「それはないよ。こんなに愛しているんだから。そんなことをしたら、お前の大切な奴を殺しに行くよ」

 これ以上、関を怒らせれば、本当に家族や友人を殺しに行くかもしれない。

「もう分かった。何も言わない。これからも一緒にいるし、どこへも行かない」

「誓えるんだな」

「誓う」

「浮気したら、そいつも殺すし、家族も殺すぞ!」

 香織さんは頭が真っ白になり、自宅に帰ってから父親に今日までの関の言動について話した。父親は香織さんからスマホを預かった。

〈すべて壊してやるからゼロになれ〉

〈父です。もう娘を追い込まないでくれ。この携帯は私が預かる。もう娘には会わせないから、連絡してこないでくれ〉

〈話をさせてください〉

〈キミのお母さんと私と同席なら、会わせてやることもやぶさかではない〉

〈2人で会えないならいいです。荷物を取りに行きますから、玄関先に置いておいてください〉

 自宅にやって来た関とは、父親が対応した。

「オレが話したこと、全部知ってるんですか?」

「だいたい知ってるよ。今回は縁がなかったと思うんだね。また落ち着けば、会える日も来るだろう」

「いや、もう二度と会うことはありませんから…」

 関は一礼して帰って行った。これで終わったと思っていた。ところが、香織さんのスマホに〈すべて壊してやるからゼロになれ〉というLINEが届いたのだ。香織さんは言った。

「あいつはそんなに甘い奴じゃないよ。何を仕掛けてくるか分からない」

 父親は玄関のオートロックの暗証番号を変えた。寝る前にはすべての窓が施錠されていることを確認した。明日にも警察に相談して、防犯カメラを取り付けなければならないと思っていた矢先、問題の事件が発生したのだ。