このHLAの適合数がなるべく多い者同士間での移植なら、拒絶反応も最小限に食い止めることが可能になり、当然、移植の成功率は高くなる。とはいえ一卵性双生児同士の移植でもない限り、拒絶反応は必ず現れる。
免疫反応は、移植臓器だけではなく、ウイルスなどの侵入に対しても反応し、人間の体はこの免疫システムによって健康が維持される。臓器移植はこの免疫拒絶反応をいかにコントロールするかの闘いでもある。
1970年代の腎臓移植は、まだ医療としては確立されていなかった。1980年代に入り優れた免疫抑制剤が日本に導入されるようになり、揺るぎない医療となった。
臓器提供したくない妻と、そんな妻に財産を残したくない夫
ところが検査の数日後、臓器の提供を了解していると言った妻から病院に電話が入った。
「先日していただいた検査の件でご相談があるのですが……。私の腎臓は、適合性に問題があるという検査結果にしてもらうわけにはいかないでしょうか」
夫の説明では、妻が腎臓を提供すると同意したので、移植の相談に来たという話だったが、実際はそうではなかった。妻は納得しないまま、夫に連れられて来院したのだ。
ドナーの意思確認ほど困難なものはない。夫婦だから「一心同体」などと思い込むことがいかに危険をはらむか。当時の移植医は少なからずこうした経験をしている。
このようなケースは今日でも起こり得る。夫が妻に提供を求めても、妻が拒否する。それでも夫は妻に提供を求める。
「俺が死んでもいいのか」
激しい言葉で妻をなじる。
資産がある場合はさらに問題は複雑になる。
「そんな妻に俺の財産を譲りたくない」
臓器提供をめぐり、離婚に至ることもある。
あるいは夫に隠れて妻が臓器斡旋組織を訪れ、「夫に海外で移植してやってほしい」と訴えるケースさえある。
