治らぬ病を抱え、臓器移植の道を探る患者は多い。しかし移植用臓器は世界的に不足し、日本ではまったく足りない。そこで、「闇」の道に手を出す人たちがいる。
はたして、どのように臓器は流通しているのか。ここではノンフィクション作家の高橋幸春による『臓器ブローカー すがる患者をむさぼり喰う業者たち』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。現場のもようを紹介する。(全3回の1回目/続きを読む)
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まだ生存している死刑囚から臓器を取り出した経験
イギリスに亡命した中国人医師エンヴァー・トフティ(Enver Tohti)は、まだ生存している死刑囚から臓器を取り出した経験を持つ。
1995年6月、当時のトフティはウルムチ中央鉄道病院の外科医だった。ウルムチは、新疆ウイグル自治区の首府だ。主任外科医から「熱くなる仕事」だと告げられ、翌朝9時に医療チームと救急車の準備をするように指示された。
麻酔科医と2人の助手を乗せ、救急車は主任外科医が乗る車の後について行った。しかし、車内はすぐに重い空気につつまれる。救急車が向かっていたのは、反体制派グループを処刑する西山処刑場だとわかったからだ。険しい丘の手前で2台の車は止まった。
トフティは主任外科医から命じられた。
「銃声が聞こえたら丘の向こうに回り込め」
しばらくすると銃声が聞こえた。一斉射撃のようで、何発もの銃声が響き渡った。再び主任外科医の車の後について走った。
車が止まった場所には、射殺されたばかりの遺体が転がっていた。
10体なのか20体なのか、それを数えている余裕はトフティにはなかった。武装警官が声を上げた。
「こいつだ」
30歳ぐらいの男で、他の囚人はすべて坊主頭だったが、彼だけは長髪だった。外科医であるトフティは、もう1点、その男に他の囚人とは異なるところがあることに気づいた。