「その男だけは、右胸を撃ち抜かれていた」

「手術しろ」主任外科医が命じた。

「何の手術をするんですか。すでに死んでいるのに……」

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 だが、男は死んではいなかった。

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“麻酔なし”での摘出

 主任外科医は再度、命令した。

「肝臓と腎臓を摘出せよ」

 指示は「その男から」というものだった。男はすぐに救急車に運び込まれた。

「麻酔は不要。生命維持装置も不要」主任外科医の声が響いた。「意識はない。メスを入れても反応はしない」

 麻酔科医は何もしようとしなかった。

 トフティが男の体にメスを入れた。男の体が大きくのけぞった。命令されるままにトフティは肝臓と腎臓を摘出した。

 その後、それでも男の心臓はまだ動き、脈打っていた。トフティに残された仕事は、遺族のために開腹部の縫合を丁寧にすることだけだった。