こうした調査の後、県教委はA教諭に対して「文書訓告」という処分を決定した。その理由は以下のようなものだ。

  1. 逆方向に投げたイズミくんに対して理由も確認せず一方的に指導した。イズミくんが何か理由を言おうとしていたようだが「屁理屈言うな」とシャットアウトした。
  2. 人権的な配慮がまるでない。必要以上の大声で全体の前で叱責した。大きな声で驚いた校長先生が何度か校長室から校庭を振り返ったという証言をしている。
  3. 非常に過度で高圧的な指導を15歳(筆者注:被害当時は14歳)の少年に対して教師という立場で高圧的な叱責を与え続けた。
  4. 「振り返り」に対し強制的に書き直させた。
  5. これらの不適切な指導があったことでイズミくんの心に深い傷をつけた。当初、教育委員会からの質問に対してこのことを語れず、フラッシュバックを恐れ、深入りすることができなくなった。

 しかしイズミくんの両親は、A教諭が懲戒処分にならなかったことに不満を覚えた。

イズミくんが向かった橋。高さは10mほどある

 文部科学省は22年12月に『生徒指導提要』(改訂版)を作成し、「不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もある」として、その後、懲戒基準を作るように通知した。しかし、栃木県の教職員の懲戒基準には、現在も「不適切な指導」を理由とする規定はない。そのため文書訓告にとどまったという。

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「全部ウソです、不信感しかない。部活動を続けていることにも怒りが湧きました」

 母親はその処分の軽さに憤っている。

「当然もっと重い処分になると思っていました。県教委の課長は、『文書訓告は、教員が一生背負う重たい十字架だ』って言ったんです。しかし後に、訓告が懲戒処分ではないことがわかって愕然としました。校長も『私にも何らかの処分がある』って言っていたのに処分はなかった。全部ウソです、不信感しかない。A教諭が部活動の担当を続けていることにも怒りが湧きました」

 イズミくんが冬休み明けに復帰してから卒業するまで、母親は仕事を休んで学校まで送迎していた。ある日、下校時に学校の敷地内で待っていると、A教諭が部活動の指導をしている姿を目撃し、母親は校長に抗議したという。

 卒業前には一度、A教諭が直接イズミくんに謝罪する機会があったという。イズミくんは、そのときの気持ちを事前に文章をにし、母親が代読した。イズミくんは現在、日常生活を送る上では支障がないというが、後遺症があり、「野球ができるほどではない」といい、しゃがむと違和感があるという。

「今は命があったことに感謝しています。不適切な指導で自殺に追い込まれる人がいることを知ってほしい」(イズミくん)

体育教師の威圧的な指導が原因で自殺未遂に追い込まれたが一命をとりとめたイズミくん

 イズミくんは、不適切な指導がなければ自殺未遂も後遺症もなかったなどとして、町に対して約2850万円の賠償を求めて提訴した。被告の町側は争う姿勢を示している。

 壬生町教育委員会は筆者の取材に対して「裁判になったことは非常に重く受け止めています。それ以上は、係争中のため、コメントは差し控えさせていただきます」と話している。

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