料理も洗濯も掃除も科学、子育ては人間的な総合力。男性が教えられてこなかっただけ、そして誰でも自分が生きることに前向きであれば自然と学び取ることなのに、男性だけがまるっと「基本的な生活能力」を社会的な選好によってそがれているのを社会が疑問視してこなかっただけである。そのほうがラクだったからいいじゃん、って? いやいや、そんな生きる必修科目を教えられず、むしろ「そんなことに興味を持つなんて男らしくない」的な逆バイアスを刷り込まれていたなんて、残酷だ。

だって自立できないんだから。

あなたは分水嶺のどっち側?

女性の労働力参加率のめざましい上昇や、いわゆる料理男子の増加という現象面からしても、若い層から見れば女性と男性が同様に仕事をして同様に家事もするのは当たり前。ところがまだ「当たり前に両親が家事育児する」というフレーミングには完全に移行していないのは、硬直した労働環境や上の世代に強く刷り込まれた「母性神話」など、ひとえに日本社会がちゃんと自分で自分のメシを作り、自分が汚したものや空間を洗濯し掃除し、自分の子どもを育てる日本人の男性像を構築してこなかったからだ。

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そしていま、家事が楽しい、美味しい、気持ちいいと知ってしまった男性が暮らしのスキルに続々と目覚めている。私としては、よかったね、ようこそ本当の暮らしへ、本当の人生へ、という気持ちで胸がいっぱいである。

冒頭の話に戻ろう。現代人類に生きる力を問うたコロナはいろんなものをリセットしてアップデートしたが、男子の生きざまもアップデートされた。さて、これを読むあなたは佐藤尚之さんのいう「分水嶺」のどっち側を流れているだろう。

自宅のキッチンでステーキ肉を焼けるくらいでドヤっちゃダメですよ? それ誰が買ってきたの? 冷蔵庫に入れてくれたのは誰? 買い物袋を畳んだのは誰? 汚した鍋や皿やキッチンも自分で洗いましたよね? 途中で行ったトイレの掃除、お宅は誰がしてるんですか? 肉なんて誰でも焼けるのよ、トイレ掃除はできない(ていうか「俺の仕事じゃない」)なんて、うわ、カッコ悪。もうこれからの時代モテないよ、サヨナラ〜。

はてさて、2年の育休を取得してひたむきに家事育児と格闘し涙する厚労省官僚のパパ役を、キャスト内イチのヒーロー枠ディーン・フジオカが演じる「対岸の家事」の今後も楽しみだ。

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。
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