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『大家さんと僕』のこぼれ話

古川 そうだ。これは1回記録しておいたほうがいいってことがあった。カラテカ矢部(太郎)さんの話。

宇多丸 矢部さんの『大家さんと僕』は、矢部さんが『タマフル』聴いてて、しまおさんが矢部さんのブログで大家さんとの話が面白いって言っていたのを聞いて、「あ、こんな話が面白いんだ」と思って、それで描き始めたらしいですよ。

しまお らしいですね。

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宇多丸 だから、すごいですよ。

古川 すごいですよ。

 

宇多丸 この間、矢部さんとTBSのエレベーターホールでたまたまお会いして。そうしたら、僕、初対面だったんですけど、向こうは認識していただいていて。

しまお ねぇ。そういうことはもっと言ってほしいよね。

宇多丸 ほんとだよね。それを漫画に描いてっていう話ですよね。

しまお ねえ。描いてほしいよね。ははは。

宇多丸 あの単行本の中にその話が入ってないのがおかしい!

古川 糾弾ムードになってきた。でもさ、あの本の担当編集さんがしまおさんに献本した時は……。

しまお そう。私、全然忘れてた。人違いじゃないのかな? と思って。

古川 全然記憶になかったっていう。

トータルで宇多丸がやってることを認識してもらえる場ができた

古川 最後にまとめみたいな話、する? 型通りの質問かもしれないけど、11年間続いた番組が終わるわけじゃないですか。どうですか? 日々の生活の中で、毎週土曜に2時間の放送があったわけじゃないですか。それがなくなるというのは。

宇多丸 さっきも言ったけど、ラッパーという本業があって、それとは別にあちこちで映画評だのアイドル評だのをやってたけど、それぞれがまったく関係ないシーンとして独立していた。トータルで宇多丸がやってること、みたいに認識してもらえる機会がそれまで本当になくて。ていうか、そんなの不可能だよなって思ってた。でも、その場がちゃんとできたっていうのが、自分的にいかにありがたいことだったか。精神安定上にも大変よかった……。「死にたい」って言う率が相当減りましたね。

古川 よかったね~。

宇多丸 以前100回ぐらいだったのが、今はもう15回程度には。

 

しまお 相当減ってますね。

宇多丸 相当減りましたね。

古川 でも、まだあるんですよね。

宇多丸 もう今はただの口グセみたいになっちゃってるぐらいなんで。だいぶいいですよ。

古川 ああ、それはよかった。

宇多丸 「これが自分のやりたいことだ!」ということをトータルでドンッ! って出せる場ができたのは本当にありがたい。それによって、ライムスターの活動にもあんまり過剰に自分のエゴを持ち込まないで済むようになったというか。

しまお なるほど。

宇多丸 昔はライムスターに全部持って行ってたから。今思えばライムスターでやるべきでないことまでも入れようとしてたんだけど。メンバーに眉をひそめられながらね。でも、ラジオをやりたいっていうのは昔から言ってたし、「オレは本当はラッパーよりもラジオパーソナリティのほうが向いてるんだ」みたいなことは昔から公言してた。やってできたかどうかは別としてね。なので、よかったです。

古川 宇多丸さんの表現媒体としては一番向いていたんでしょうね。週1のラジオ番組というのは。

宇多丸 まあでも、おかげさまで。よかったですよ、ほんとに。

古川 そしてまたこれからですよ。

しまお 私も嬉しいです。また毎週お会いできるっていう。

宇多丸 そうですよね。そうなんですよね。レギュラー復帰なんですよ。しまおさんもより当事者性が高まってるんですよ。

しまお でもまあ、そこはそんなに。

宇多丸 そうなの?

古川 いやあ、しまおさんは重要ですよ。

宇多丸 でも、ラジオってそれはありますよね。オレもメインパーソナリティとは言われてるけど、「ここは絶対こうしなきゃ」とか「これをやんなきゃ」とかはあんまりなくて。映画評はもちろん頑張ってるけど、でも、それ以外は基本、起こったことに対して普通に反応してるだけっていうか。

 

しまお できないことはあきらめていいからね。私の最初のプロレスにしてもそうだし、宇多丸さんだって続けられないことはやっぱり途中で切り替えるだろうし。最後までやり切らなくていいっていうか、うまくいかないことやらなくていいのがラジオのいいところだと思う。

宇多丸 いいねぇ。ラクしながらやりましょうよ。それはやっぱりタモリさんとか見てると学んだとこ。収録でも、必要以上に全場面に面白いことをぶっ込もうとか、そういうことをしないし、良しとしない。むしろ、そういうことするなっていう感じなんだよね。面白いと感じた時だけに反応すればいいっていう。

古川 いいですね。

しまお タモさん、最高にいいですよね。

宇多丸 そうそう。でも、そこで出してくる時の、「エッ、そんなことまで知ってるの?」みたいな飛距離がすごいんだけど。でも、がっつくことが面白いわけじゃないっていう姿勢は、少なくとも僕は合いますね。

――とても貴重なお時間、今日は皆さんありがとうございました。

古川 ほんとにただの世間話ですけど、いいんですか? まぁ、この瞬間だけのフワフワした気分は出てるのかな。

宇多丸 ねえ。今この瞬間だけですからね。『タマフル』が終わりかけで、新番組も始まりかけで。

しまお すいませんねぇ、なんか。

前編 東日本大震災翌日に生放送「あの時『タマフル』があってよかった」​
http://bunshun.jp/articles/-/7906

写真=末永裕樹/文藝春秋