「治療より利益重視」の訪問歯科

日本の歯科医院は、倒産や廃業が相次いでいるのが現状だ。民間調査会社の帝国データバンクが2024年11月6日に公表したレポートによると、同年10月までに126件の歯科医院(歯科医)が倒産や休廃業・解散(廃業)に追い込まれたとのことだ。

2023年通年の件数(104件)と比較しても記録的なペースで歯科医院が減っている。歯科医の高齢化に加え、歯科衛生士等の人材不足、物価高騰に伴う歯科用材料費等の値上げによって、収益確保が厳しい状況になっているという。

そうした状況に置かれた歯科業界のなかで、彼女が勤務しているのは、介護施設をメインとした訪問歯科だ。

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「訪問歯科の現場は患者の口腔ケアよりも利益を優先しているケースが多い」

杉山さんは言う。一体どういうことか。彼女は一枚のメモを差し出しながらこう続けた。

「これは介護施設に訪問診療に行ったとき、どの患者さんに、どんな診療を行ったかを一覧にしたものです。患者さんごとに対応した時間が記されていますが、このリストをもとにレセプト屋さんと呼ばれる担当者が診療報酬の請求手続きを行います。しかし、このリストの内容は事実とは全く違うんです」

「20分ちょうどの口腔ケア」の意味

メモにはこうある。例えばAさんに朝9時から9時20分まで口腔ケアを行ったと記されている。次の患者Bさんには、9時23分から9時43分まで同じく口腔ケアを行ったとある。リストには20名ほどの名前が記されていたが、衛生士による口腔ケアや歯科医による治療を各人20分行い、次の患者を診るまでに各3分間隔で記されていた。

「まず、一人の患者さんを20分診るというケースは非常に少ないです。なかには5分も診ればいいほうという方もいらっしゃる。しかし全員20分診たことにする。それは診療報酬を不正に得るためです」

2024年度に歯科の診療報酬制度が改定されたものの、それまでは「20分ルール」といったものが存在しており、20分以上患者を診た場合、より多くの診療報酬を得ることができた。そのため、つい最近まで診療時間を偽装していたというわけだ。