「高齢者施設に訪問する際は、歯科医と衛生士、コーディネーターの3人で回ることが多いです。コーディネーターは、車の運転や事務関係を行う助手というイメージですが、以前私がいた病院ではコーディネーターが歯科医よりも偉そうにしていました。とにかく利益を多く出すため、コーディネーターが事前にリストを作成し、『次は、この人に行ってください』『この人は、診なくていいです』などと指示を出す。歯科医や衛生士は患者さんのためにと思っていても、そのコーディネーターは少しでも利益を多く出すことに職業的な生きがいを感じていたのでしょう。とんでもない数の人数を診るよう指示を出し、私たちはそれに従っていました」

ほとんど患者が来ないのに潰れない歯科医院の正体

杉山さんは続ける。

「リストにあるように、次の患者さんまでの間隔が3分というのもあり得ないです。とくに高齢者のリハビリ施設などに行く場合は、患者さんがリハビリ中だったりするため順番どおりに診られません。患者さんがいる居室まで移動し、診察の用意や片付けをする時間もありますので、ぴったり3分で次の方を診るというのはあり得ない。こうして不正がバレバレのタイムスケジュールになっているときは、病院にいるレセプト屋さんが気を利かせて、『これではまずいから、こうしていいですか』と歯科医の許可を得て、不正がバレないように調整して診療報酬を請求していました」

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訪問歯科は、「外来に比べて加算点数が高く、経費率も低い」と杉山さんは言う。

つまり、やり方次第では儲かるというわけだ。ただし、さまざまな決まりがある。

例えば、利用者は訪問歯科診療所から半径16キロ以内の自宅や施設に限られ、その距離を超えると保険適用外になるなどのルールがあるそうだ。しかし、そうしたルールの盲点をついた運用が行われていると明かした。

「16キロを超えた老人ホームに訪問診療するため、16キロの外に新たな歯科医院をつくって、そこを拠点にして訪問診療をしている病院もあります。例えば歯科医院を作って医師を一人常駐させ、ホワイトニングくらいしかやらない。儲からなくてもいいんです。16キロの範囲を広げることが目的だからです。なかには、アパートの一室に、使えるかどうかもわからないような診察台を置いて、形だけ歯科医院を開設しているかのように見せている。ほとんど患者は来ないため、スタッフの親族を診たことにしてカルテを偽造している医院があると聞いたこともあります」