「報告書」では宝塚駅~尼崎駅間のダイヤ設定に対して厳しく批判

 宝塚駅から尼崎駅までにかかる「所要時分」は、「基準運転時分」だけでなく、途中の停車駅での「停車時分」を加えなければならない。ダイヤに設定された「停車時分」は、既述のように、

 ・中山寺駅  15秒

 ・川西池田駅  20秒

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 ・伊丹駅  15秒

  合計  50秒

 となっていた。

 現実の停車時間がこのように短い秒数では対処し切れないことを、木下は実測してわかっていたから、課題検討会で取り上げることになっていたダイヤ問題については、特別にこだわりをもって臨んでいた。漠然とした議論でなく、論理的にしっかりと問題点を明らかにしようと、既に公表されていた航空・鉄道事故調査委員会の「事故調査報告書」のダイヤに関する分析の項を精読していた。

 事故調の「報告書」は、宝塚駅~尼崎駅間のダイヤの設定内容について、詳しく調査・分析した結果に基づいて、次のように厳しく論じていた。

・事故以前において、宝塚駅~尼崎駅間の「基準運転時間」を3回にわたって合わせて50秒短縮しているが、これはダイヤ担当者が会社の営業施策を実現させるためであった。(筆者注・会社の営業施策とは、私鉄各社との競争に勝つためのダイヤの高速化・列車本数増のこと。)

・始発の宝塚駅では、快速電車をホームに停車させてから発車までの時間を1分30秒と設定してあったが、別のホームから先に出る上り急行列車の発車が遅れることが多く、その影響を受けて、上り快速電車は出発時からダイヤより遅れることが多かった。

・「停車時分」については、川西池田駅での計画の20秒では、事故以前の実態調査から発車が遅れることが多く、5秒ほど不足していた。

・また、中山寺駅と伊丹駅での「停車時分」15秒についても余裕があったとは考えられない。

・事故以前における事故電車と同じ時刻の上り快速電車の運転時分を調査したところ(65日分)、半数以上が尼崎駅に1分以上遅れて到着していた。(筆者注・1分以上の遅延の常態化は、ダイヤに無理があることを示していると言わざるを得ないだろう。)

 これらの事実から、「報告書」は、「宝塚駅~尼崎駅間の基準運転時分と停車時分の合計は、余裕のないものであった」と厳しく批判していた。

 さらに、停車駅の記録された着発時刻がかなり不正確であることや通過駅の通過時刻を確認する場所が日によって違うことなどから、「ダイヤの管理が適切に行われていなかった」とまで論じていた。