江戸っ子と青森県民の共通点⁉

――表題作である第2話「往来絵巻」は、神田明神祭りで絵巻に描かれるはずの男が描かれていない、という事件を発端にしたミステリです。江戸っ子が神田明神祭りにかける熱量の高さ、彼らのハレとケを描きながら、出版事業を絡めていく手つきがなんとも秀逸な一作! いつもどのように構成を練っているのですか? 

高瀬 「往来絵巻」は、江戸の祭りという企画として書き上げたものでした。青森在住の私にはまったく縁のないことだったので、担当者さんから送っていただいた神田祭の資料を読みこみました。ここに主人公が関わるとしたらどの時点か、登場人物にどのような過去があるのか、などをひたすら考えて組み立てていった感じです。

 青森県には、八戸三社大祭、青森ねぶた、弘前ねぷたなど、多くの祭りがあるので、夏は町中が落ち着きをなくす感じがあります。私は参加したことはありませんが、祭りの熱量は十分に想像できるなと思いました。

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ねぷた祭りの太鼓 ©fotoco

 事件を先に考えてしまうと、内容が薄くなったり行き詰まったりしてしまうので、なるべく人物の背景を掘り下げて物語を作っていくように心がけています。

『貸本屋おせん』は、出版がかかわらなければ物語が進みませんが、縛りがある方がとっ散らからず書きやすいかもしれません(とはいえ、かなりの遅筆ゆえ、2冊目が出るまでに時間がかかりました)。ネタは、毎回ギリギリです! なにか面白い案が浮かぶと、うれしくなってすぐに書いてしまう計画のなさに、自分で頭を抱えてしまいます。

おせんの父・平治の意外なモデル

――雑誌で連載を読んでくださった方にも、あらためてお勧めしたいのが、単行本化にあたり書きおろしていただいた第5話「道楽本屋」。「模倣(もじり)本騒ぎ」を皮切りに、おせんの父・平治の死の真相が明かされるのですが……この真相は、もとからご準備されていたのでしょうか? 父のキャラクター造形にあたり、参考にしたもの、執筆のきっかけになるような物事はありましたか?

高瀬 平治の死については、シリーズが続くと決まったとき、もっと複雑なエピソードにしようと考えていました(切支丹騒動とか、水戸藩の謀略に巻きこまれたとか……)。ですが、生きていれば、思いもかけないことで人は深い穴に落ちてしまいます。なぜひとりむすめがいる男が死んでしまったのか、私もずっと考え続けていました。

 真相は、本当に物語にあるようなことだったのかは、生きている者にはわかりません。小説ならば、白黒はっきりさせた方がいいのですが、物語が始まったときにはすでに平治はおらず、せんは生き生きと江戸の町で暮らしていたので、それが結果だと自分に言い聞かせて執筆しました。

 平治のモデルは、祖父です。戦前は畳職人で、戦後は材木の仕事をしながら、自分で家を建ててしまうような寡黙な職人でした。96歳で大往生を遂げたので、そのあたりは平治とは真逆です。