備忘録には、C、D、Eに捜査員の名字が書かれている。この備忘録の内容を、かみ砕いて説明すると次のようになる。「前の事件」とはY社の事件を指す。Y社の事件でも捜査を指揮した係長の宮園警部は、Y社を立件するためのストーリーをつくり上げた。

 そのストーリーに忠実に従って動いたのは、捜査員Cだった。安積警部補は、現在捜査をしている大川原化工機の事件で、この役割を果たすのは、自分だろうと語っていたのだ。

写真はイメージ ©akiyoko74/イメージマート

「逮捕すれば認めるに決まってる」宮園警部の信じられない言葉の数々

 外事1課は18年10月に大川原化工機の本社などに家宅捜索に入った。この会話がなされた19年1月は、社員らの聴取を本格化させていた時期だ。安積警部補は元取締役の島田順司さんの取調官だった。

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 安積警部補の取り調べは、国家賠償請求訴訟の1審・東京地裁判決(23年12月)で、偽計、欺罔を用いたとして、違法と認定されている。実際に「やっていた」のだ。

 宮園警部は部下の捜査員らにこう語っていたという。

「うちに目を付けられたら終わりだよ。こえーよ警察」

「認めなければ会社潰れるんだから、逮捕すれば認めるに決まってる」

「不正輸出するヤツは手続きが面倒なんだ。手続きに時間をかけていると、競合他社に負ける。だからあえて許可を取らないんだ。そういう供述を取ってこい」

 信じられないような言葉の数々だが、捜査は宮園警部1人だけで進めることはできない。それを容認する上司の存在なしに、捜査は進むことはなかったはずだ。それがよく表れたエピソードがある。

「女は噓つきだから落とせ」厳しい取り調べを受けた女性社員はうつ病に…

 大川原化工機の海外輸出担当の女性社員が厳しい取り調べを受け、うつ病になったことがあった。その際、女性社員の取り調べを担当していたT警部補が捜査会議で「落とせません(自白させられない、の意)でした」と報告すると、宮園警部と上司の渡辺誠管理官(警視)は「女は噓つきだから落とせ」「女の話は聞く必要がない」と言っていたという。

 このやりとりを聞いていたある捜査員は、「この発言自体がアウトなので、よく覚えている」と呆れ返っていた。

 捜査関係者によると、最初に乾熱殺菌の解釈を生み出したのはK警部補だった。K警部補は経産省に出向経験があり、法令解釈を熟知していた。当初、経産省との打ち合わせに部下の女性と参加していた。

 ただ、途中でこの部下にセクハラをして、外事1課から異動することになった。このK警部補の家には後輩記者が行った。毎日新聞の記者であることを名乗ると、「いい、いい」と言ってすぐに玄関の扉を閉めた。

 セクハラをするような警部補が乾熱殺菌という独自理論をつくり、人権意識に欠けた発言をしていた渡辺管理官、宮園係長が事件のストーリーを練り上げ、忠実な部下の安積警部補が関係者から見立てに沿う証言を集める。

 そして、多くの捜査員が捜査方針に盲目的に追従する。これが、私が複数の捜査関係者から聞いた大川原化工機事件の捜査の実体だ。この無茶苦茶な捜査の過程で、元顧問の相嶋静夫さんが亡くなっているのだ。もはや国家権力の暴走としか言いようがない。

最初から記事を読む 警察が証拠を捏造し、“無実の罪”で中小企業の社長らを逮捕…「捜査の過程で人が亡くなった」冤罪事件・大川原化工機事件の発端

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