不正輸出の濡れ衣で社長ら3人が逮捕されるも、初公判直前に起訴取り消し、その後の国賠訴訟では捜査員からの「捏造」発言も飛び出した「大川原化工機冤罪事件」。なぜ警視庁公安部によるストーリーありきの捜査は止まらなかったのだろうか?

 ここでは、同事件を取材した毎日新聞記者・遠藤浩二氏の著書『追跡 公安捜査』(毎日新聞出版)より一部を抜粋して紹介する。(全3回の1回目/2回目に続く)

記者会見する大川原化工機の大川原正明社長(右) ©時事通信社

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「確かに捏造と言いました」

 2023年6月30日。前日から続く梅雨空の東京・霞が関――。新聞・テレビ各社のブースがL字型の通路沿いに並ぶ司法記者クラブの中でも、窓がない毎日新聞のブースはひときわ狭く圧迫感がある。

 背丈より高い棚には、埃をかぶった過去の事件ファイルや新聞のスクラップが並ぶ。各社のブースを仕切る薄い壁の天井近くだけは防災上の理由で空間が設けられているが、おかげで、小声で話さないと話は筒抜けだ。

 約2カ月前に最高裁の担当になった私は、この決して良好とは言えない記者クラブの一角で、インスタントコーヒーを飲みながら翌月に判決のある訴訟資料に目を通していた。

 ところが、のんびりとした雰囲気は、突如ブースの外から聞こえた騒々しい足音と、後輩記者の慌てた報告で一気に破られた。

「捏造って言ったんですけど」

 この日は、午前10時から、大川原化工機株式会社(横浜市)の社長らを原告とする国家賠償請求訴訟が行われていた。その捜査に携わった警視庁公安部の現職警察官人の証人尋問で、思いもよらない発言が飛び出したという。

「本当にそんなこと言ったの? マジで?」

 驚きながら確認するキャップに、「確かに捏造と言いました」と断言する後輩記者。

 捏造――? 

 傍らで二人のやりとりを聞いていた私は、その言葉の重みに底知れない衝撃は受けたものの、それが意味する本当のところはまだつかめていなかった。ただ、漠然と、何かが動く、そして自らも動かなければならないと感じていた。