捜査方針に沿う証言を集められない捜査員は宮園警部から個別に呼び出され、叱責を受けることもあった。また、大川原社長の取調官は当初、「捏造」発言をした濵﨑警部補だったが、不正輸出を認める調書を取ってこないので、途中で交代させられたという。
そもそも大川原化工機側は不正輸出をしたという認識はないため、社長や社員から不正輸出を認める調書は、本来取れるはずがないのだ。
過去に起きた不正輸出事件との共通点
ストーリーありきの捜査は別の事件でも起きていた。外事1課5係は大川原化工機の捜査を始める直前まで、金属加工メーカー「Y社」の不正輸出事件を捜査していた。
Y社は外為法で規制されている核兵器の開発に転用可能な「誘導炉」をイランなどに輸出したとする疑いがかけられていた。社長ら2人は外為法違反容疑で書類送検されたが、17年3月、いずれも不起訴(起訴猶予)処分になった。ある捜査関係者は自嘲を交えて言った。
「貴金属を溶かす鋳造機でウランを溶かして固めるような馬鹿はいない。業界では、この装置の輸出が法律で規制されていることをみんな知らなかった。このため検察は不正輸出の『故意』を問えないと判断した。公安部は『故意』があると考えたが、検事はそう考えなかった」
捜査関係者によると、この時は、Y社を退職した社員の話を軸にして事件を組み立てたという。Y社の事件では「退職した社員」、大川原化工機の事件では「同業他社のX社」が重要な役割を果たした。公安部の捜査には見立てを演じてくれる「役者」が必要なのだ。
Y社と大川原化工機の明暗を分けたものとは?
2つの事件は、社長らには不正輸出の認識がないにもかかわらず、公安部の言いなりになる人物や企業を抱き込み、ストーリーに合う証言を集めたという点が共通している。
ただ、Y社の時は東京地検がまともに機能し、不起訴にした。Y社の事件の捜査指揮を執ったのは、大川原化工機事件の時と同じ宮園警部だったが、地検側の担当検事は大川原化工機を起訴した塚部検事とは違った。検事の違いが、Y社と大川原化工機の明暗を分けたのだ。
Y社の捜査がストーリーありきだったことは、A4用紙1枚の文書にも残されている。ある捜査員が書いた備忘録だ。この捜査員は、宮園警部の指示に忠実に従い、大川原化工機の立件を目指す安積警部補に強い不信感を持っており、会話をメモとして記録していた。2019年1月、原宿署の9階第一会議室で、安積警部補は次のように語ったとされる。
係長(筆者注:宮園警部のこと)が前の事件でもストーリーを無理やり作るってのはいろんな人から聞いてますよ。Y社の事件の時はCさんがやったんですよね。Dさんは曲がったこと嫌いだし、Eさんもそういうタイプじゃないだろうし。今の5係で係長の方針に乗るタイプの人っていないですよね。やっちゃうとしたら私なんだろうな(笑いながら)――。
