マルチまがいの商法も…SNS上で増加する違反広告
オンライン診療をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、入口となるネット広告・SNS広告を規制することも有効な手段となる。
厚労省は外部の事業者に委託して運営している「医療機関ネットパトロール」を通じて、美容医療など自由診療を提供する医療機関のウェブサイトが医療広告ガイドラインに違反していないか監視する取り組みを進めている。同省のまとめによると、ネットパトロールで2023年度に確認された違反は「美容医療」が2888件と最も多い。内訳は「美容注射」21%、「顔整形」11%、「GLP-1」11%、「発毛・AGA」9%など。「リスク・副作用の記載が不十分な自由診療の広告が多い」とされている。
美容医療については、特に「SNS上での違反広告」が増加していることが2025年3月にNHKで報道された。ただ、SNS広告は日々目まぐるしく変化するため、ネットパトロールでの監視には限界がある。これまでに確認された事例では、紹介した人が払った料金の一部が永久的にバックされる「紹介プログラム」を利用すると治療代を完全に無料にできると、インフルエンサーに語らせているAGA治療のSNS広告もある。クーポン合戦、マルチまがいの商法が横行するほどオンライン診療ビジネスの競争は激しさを増している。
「医療広告規制はガイドラインに依拠しているところが大きいこともあって、行政処分までいくことが少なく、ネットパトロール事業による医療機関への注意喚起によっても是正されない事案は、自治体からの行政指導に委ねられているのが現状です。ただし、昨今、厚労省が自治体に対して、行政指導の次のステップである措置を行える体制の整備を促しているので、今後、行政処分案件も出てくるかもしれません」(山田弁護士)
高須英津子医師「自分の健康は自分で守る意識を」
オンライン診療ビジネスの闇が広がる要因として、医師側の問題、企業側の問題のほかに薬に対する消費者意識の問題もある。
日本人は必要な医療が公的保険でカバーされる国民皆保険体制に慣れているため、「医師が処方する薬は安全」と信じる傾向が強い。しかし、保険診療だけでは成り立たないほど病院・クリニックの経営環境が悪化し、新規開業のクリニックの間でGLP-1ダイエットやAGA治療など自由診療のメニューを多数用意するところが増えている状況では、消費者側も薬に対する認識を大きく変えることが求められる。
山田弁護士は「法規制の話とは別に、薬に関する消費者教育が必要」と話す。
「コロナ禍でオンライン診療が解禁され、自由診療を受ける機会が急速に広がりましたが、それに対応できる消費者側の認識は十分に育っていないのではないか。かかりつけの主治医と対面でやりとりするのと比較して、オンライン診療では情報が一方的になりがちで、医師に突っ込んで聞くこともなかなかできない。『正しく使用しないと薬は危ないものだ』という消費者教育を進める必要があると思います」
高須英津子医師も、不適切なオンライン診療の被害者にならないために「薬の怖さを知ってほしい」と呼びかける。
「薬は副作用もあり、毒にもなります。無責任に薬を出すオンライン診療のクリニックはたくさんあるので、『自分の健康は自分で守る』という意識が必要です。GLP-1ダイエットの注射で急性膵炎になる人もいますし、貧血になって救急車で運ばれてきた女性も実際にいます。仕事が忙しくても、体全体を診てくれる医師のところに定期的に通院することをおすすめします」
オンライン診療に対する法規制がどんなに進んでも、法の網をかいくぐる企業は必ず現れ、目先の利益のために企業に協力する医師も必ず存在する。オンライン診療を含め自由診療の比率が高まるこれからの時代、薬を甘く見ず、自分の身を守る術を養っていきたい。
