スマホなどを使って診察や薬の処方が受けられるオンライン診療で、「安全性」よりも「効率性」を優先した不適切な事例が増加している。GLP-1ダイエットやピル処方などでトラブルが相次ぐ実態を各メディアが報道し、文春オンラインも2024年8月の記事で、ずさんなオンライン診療の「尻ぬぐい」をさせられる医師らの怒りの声を取り上げた。国は法整備に動き、オンラインクリニックの派手なテレビCMも一時期よりは減ったかに見えるが、よりつかみづらい形で「オンライン診療ビジネス」の闇は拡大している。
悪徳商法に走る美容クリニックなどの問題をYouTubeで追及する美容外科医の高須幹弥医師(高須クリニック名古屋院院長)は、自由診療(保険外診療)分野で広がる「お金儲け」目的のオンライン診療にも警鐘を鳴らす。
「オンライン診療は、コロナ禍において通院には感染リスクがあるということで解禁されましたが、保険診療よりも自由診療の分野で広まり、適応がないのに薬を処方するなどの問題が生じています。そもそも自由診療の世界は対面のクリニックでも問題のある医者が多い。オンラインになれば、まともに診察しないなどのリスクはさらに高まります」
幹弥医師の妻で美容皮膚科医の高須英津子医師(銀座高須クリニック院長)も同じ見方をする。
「例えば低用量ピルも血液検査などで血栓ができないか確認しながら処方しフォローしていくものですが、オンライン診療ではただ薬を出すだけというところがある。医師がちょっと顔を見ただけでOKみたいな効率重視のオンライン診療が増えています」
筋肉増強目的の「アナボリックステロイド」処方も要注意
オンライン診療をめぐっては、ダイエット目的の糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬)処方、低用量ピル処方、AGA(男性型脱毛症)治療、ED(勃起障害)治療などで不適切な事例が指摘されてきた。
「AGA治療で使用するフィナステリドなども肝臓に負担がかかるので定期的に血液検査をしたほうがいいのですが、それをしないでオンラインでただ薬を出しているだけというところがある。最初の顔合わせだけ医師がして、診察のフリをして、あとは口の上手いカウンセラーがひたすら進めるというケースも多いと聞きます」(幹弥医師)
幹弥医師によると、最近では筋肉増強外来のオンライン診療で、男性更年期障害などの治療で使用するアナボリックステロイドを安易に処方するケースもあるという。多くの副作用がある薬が本来治療対象ではない男性・女性に処方される危険性はオンライン診療でより強まる。幹弥医師が特に問題視するのは、痩せている女性に「GLP-1ダイエット」を勧めるケースだ。
「肥満症に悩む女性にGLP-1を出すのはありだと思いますが、すでにガリガリに痩せている女の子に、本来は糖尿病の治療に用いるGLP-1受容体作動薬を出すケースが多い。日本人の女の子は痩せすぎが問題になっているので、痩せる必要がないのに『痩せたい』と言ってきたときは、医者はむしろ止めないといけない。だけど、お薬を出さないと商売にならないから出してしまう。これは大きな問題です」
