新型コロナの感染拡大を機にスマホ・PCなどを用いたオンライン診療が解禁されてから4年、特に行政の監視の目が入りにくい保険外診療(自由診療)でオンライン診療の「カジュアル化」が急速に進んでいる。
ネットにはAGA(男性型脱毛症)治療、ED(勃起障害)治療、ピル(経口避妊薬)処方、ダイエット目的のGLP-1受容体作動薬(糖尿病治療薬)処方などの広告が溢れ、テレビCMでも毎日のようにタレントが“おうち”で気軽に受診しようと呼びかける。
患者囲い込みの競争は激しさを増しているが、その裏でオンライン診療をめぐる健康被害やトラブルも増加し「尻ぬぐい」をさせられている医師から怒りの声が上がっている。
「激烈に怒ってます」ピル処方・AGA治療などでトラブル増加
「オンラインクリニック側に適切なフォローアップ体制がないために、処方されたピルを飲んで足が痛くなったという患者さんが普通の婦人科やレディースクリニックに駆け込んで来ているんです。私のクリニックにも来ますし、知り合いの産婦人科医のところにもたくさん来ていて、みんな激烈に怒っています」
そう語るのは、『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)などの著書で知られる丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄医師。宋医師によると、オンラインクリニックの不適切なピル処方には「そもそもこの人に処方するか?」という診察自体が不適切な事例と、処方後のフォローアップ体制がないケースがあるという。
オンラインクリニックがよく処方する低用量ピルの「マーベロン」や「トリキュラー」には禁忌が多数あり、「前兆を伴う片頭痛の患者」「35歳以上で1日15本以上の喫煙者」などには処方してはならない。肥満の女性も血栓症などが発生しやすいため要注意とされている。
「対面診療ならばよほどの藪医者でない限り絶対ピルを出さないような人にもオンラインで処方されていて、『不正出血している』と言っても出され続けているケースがあるんです。知っている話では、40代後半で肥満かつ喫煙者という方に低用量ピルが1年以上出されていたケースもあります。『死ぬよ?』と思って。そういう事例が全国にたくさんあると思います」(宋医師)
患者は路頭に迷い、クリニックは尻拭いをさせられる
処方後も医師は十分観察し、血栓症など重大な副作用の疑いがある場合は、すぐに総合病院の救急外来などにつながなければならない。しかしオンラインクリニックにそうしたフォローアップ体制がないと、副作用の不安が募った患者は路頭に迷い、あらためてレディースクリニックの門をたたくことになる。
「『足が痛いなど血栓症が疑われるときはこの医療機関にかかってください』と細かく案内していればいいのだけれど、それがない。そういう患者さんを受け入れる私たちからしたら、自分が処方したわけでもないのに、病院に連絡・紹介するなどの手間もかかるし、見落としがあれば訴訟のリスクを負うことにもなる。『なぜあなたたちのビジネスの尻拭いを私たちがさせられるの!』という感じです」(宋医師)