出所後は「天皇一家のポルノ写真」をばらまいて、また逮捕

 この満期出所後は、天皇一家のポルノ写真をばらまいてわいせつ図画頒布の罪で懲役1年2カ月(1976~78年)。

 そして原一男監督によるドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』のクランクインとなる(1982)。奥崎は戦地での人肉事件を追及の結果、元中隊長を殺そうと訪れるが不在で、代わりに息子を手製ピストルで撃ち負傷させる。ここまで映画の結末として収められ、殺人未遂などで懲役12年の判決。

奥崎を扱ったドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』(Amazon商品ページより)

 映画を見れば一目瞭然だが、奥崎は確かに、奇々怪々な「電波」発信者だ。しかし、かつて大戦そのものが奥崎とは違う意味での「電波」が引き起こしたものではなかったか。

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 いま、八紘一宇が正しいと確信を持って断言したら、おそらく大多数の人がそこに「電波」を感じるのは必至。毒には毒を、電波には電波を……という奥崎の狂気じみた行動を、嘲笑したり見下したりして一蹴したくなる心理は、右翼と左翼の区別さえつかない平和下で弛緩した感性そのものである。

1997年には2作目のドキュメンタリー映画も制作

 1997年に満期出所後はドキュメンタリー第2作目『神様の愛い奴』(監督・藤原章、大宮イチ)が撮影される。ニューギニア戦線の地獄を背負ったガチガチの奥崎を、ゆるゆるの時代に取り込もうとする意図が見えるのが『神様の愛い奴』の演出・構成である。

2作目のドキュメンタリー映画『神様の愛い奴』(Amazon商品ページより)

 それは「時代への媚態」と言い換えてもいいだろう。思弁的で生硬な時代に逆行させることが正統だとは到底言えないが、少なくとも日本における「いま」を全肯定できるほど、世界の現状は甘くない。

 昭和天皇にパチンコを発射した奥崎の怒りは、思想的立場はまったく逆でも、みずからの命を賭した潔癖な右翼の真剣さと間違いなく通底している。それは奥崎がニューギニアで、ゆるゆるな人生体験では得ることのできない痛みを身につけ生き残ったという、稀有な偶然がもたらした真剣さである。そんな真剣さは得てして滑稽に見えるものだが、一片の真実さえないと言い切れるものだろうか。

次の記事に続く 「危ないからお逃げなさい」河野一郎宅を焼き討ち、経団連を襲撃した末に朝日新聞社内で“拳銃自殺”…いくつものテロ事件を起こした「大物右翼」が見せていた“優しい顔”

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