「弟の遺体は、住んでいる地域とは違う場所の山中で見つかったんです。一人で練炭を使って亡くなっていました」

 幼い頃から父親に性的虐待を受けていた姉弟。その心理的な後遺症は、大人になったあとでも続き、ついに弟は自殺を選択してしまう…。2人の父親はどんな人間だったのか? フリーライターの渋井哲也氏の新刊『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』(集英社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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父親による悲惨な性的虐待の末に自殺した弟

 小学校3年生のころから児童養護施設に入所する16歳ごろまで、父親から性的虐待を受けてきたリツコ(仮名、50代)。実は、妹も弟も性的虐待を受けており、そのうち弟は、30歳のころ自殺した。子ども時代に受けた性的虐待の被害による心理的な後遺症は、大人になったあとでも続くことが多々ある。

「弟は結婚していて、妻子がいたんです。私と同じことをされていたので、弟が父のことで苦しんでいたことは知っていました。弟の遺体は、住んでいる地域とは違う場所の山中で見つかったんです。一人で練炭を使って亡くなっていました。それまでも精神的に不安定になり、自殺未遂を図ったこともあったそうです。母と妹が住んでいる家に連れて帰ったことがありました。自殺するようなつらい体験は、結婚しても忘れることができなかったのでしょう……。遺書はなかったんですが、葬儀に参列したときには、これでやっと楽になれるのかなと思ったりもしましたが……」

 弟が性的虐待を受け始めた時期ははっきり覚えていない。

「小学3年より前の記憶がほとんどないのですが、私に対する父親からの性的虐待が始まったのは小学3年、9歳だったと思います。私が父から触られるのは当たり前で、お風呂も強制的に一緒に入ってきていました。『足を広げろ』と言われて、下半身に父の指を入れられたこともありました」