一之瀬 「収容者をいじめてるんでしょ」とか、そういったマイナスのイメージですよね。そういう事件もあるにはありますが、本当にわずかな一握りであり、99.9%の刑務官は真面目に働いているんです。
あとは「見回りしてるだけなんでしょう」とか。実際は死刑囚の生活全般の面倒を見なければいけないし、最期の瞬間にも立ち会うことになる。ある日突然任命されて、死刑執行のボタンを押して見届けなければいけない。その部分に対する世間の理解はまだまだ薄いと思います。

マトバさんに最初に聞いたエピソードなんですが、死刑を担当した刑務官は執行が終われば家に帰れるそうなんです。でも、早く帰ると家族に死刑執行したことがバレてしまうから、そのまま家に帰らずにどこかで時間を潰すんです。もらった手当金を家族に渡さず使ってしまう人もいるんだとか。家に死刑を持ち込みたくないんでしょうね。
刑務官の労働環境は「かなりブラック」
――本当に、すごく過酷なお仕事ですよね。精神面ではもちろんですが、労働環境という面ではどうなのでしょうか。一之瀬さんから見て、いかがですか。
一之瀬 残業代はカットカットでほぼ出てない状態だと聞きますし、日勤夜勤の交代制ではあるものの長時間労働が常態化していて、一般企業の基準で考えるとかなりブラックだと思います。それに加えて精神的な負荷のかかる仕事を任されることや世間からの誤解もある。厳しい職場ですよね。
特に「今日あなたは死刑執行を担当してください」と呼び出されてから、最終的に柩に収めるまでの全てを同じ刑務官が行わなければいけないというのを聞いて、それはキツいなと思いました。ネットでは「ただボタンを押して落とすだけなら誰でも出来るじゃん」と言う人もいるんですが、それだけじゃないんです。下に落ちた遺体を回収して拭いて整えて……というところまでできるかというと、なかなかできませんよね。
本来ならボタンを押す人と下で回収する人とは分けるべきだと思います。でも、死刑執行に立ち会う刑務官は当日にいきなり任命されるので、普通の仕事で言えばシフトから人が急に抜けるような状態になるんですよ。その穴埋めをするのも大変なので、拘置所側としては必要最低限の人数に抑えたい。そういう人的な理由があって、致し方なく同じ刑務官が全て担っているのだそうです。