“無表情”だから感情移入できる

『半沢直樹』でも『対岸の家事』でも、江口が“透明”になってしまった自分を徐々に取り戻していくさまには勇気づけられ、思わず応援したくなってしまう。

 いずれのキャラクターも、与えられた役割をまずは全うしようとする素直さ、実直さがあり、人一倍責任感が強い。だからこそ、違和感を見過ごせなくなったときに、驚いたり怒ったりするのではなく、その表情には諦めややるせなさが大きく滲む。

江口のりこ ©文藝春秋

 打って変わって、既にシーズン5まで突入した『ソロ活女子のススメ』では、江口演じる独身女性が心の赴くままに1人行動=“ソロ活”を楽しむ様子が淡々と描かれる。

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 脱力した自然体の様子は、大袈裟ではなく静かな感動に満ちていて、視聴者が追体験するのを邪魔しないさり気なさがある。これもある意味、江口の透明化できてしまう変幻自在の存在感があってこそ成せる業なのかもしれない。

 本作でも働きながら自分のご機嫌は自分で取り、他でもない自身にとっての心地よさを探求する姿は潔くて清々しく、気持ちがいい。

江口のりこ ©文藝春秋

 江口が演じる役はいずれも一筋縄ではいかないクセありな人物ばかりだが、その中にどこか可笑しみを忍ばせ、人間の多面性や複雑さゆえの魅力を体現してくれる。

『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)の中華料理屋の店主役でも、『ドラゴン桜』(TBS系)での学園理事長役などカッチリとした役どころでも、やはり同じように人の意外性や面白味をそっと添えてくれる。きっとそれは、江口自身が断定的に何かを判断したりすることなく、常にフラットにその対象と向き合っているからなのではないだろうか。

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