――長いキャリアの集大成として、2026年1月4日での引退を決められたんですね。
棚橋 とにかく、逆境から這い上がったという結果で終わりたいと思ってます。コロナにやられっぱなしじゃ悔しいですからね。
HIRO ここからやり返さなきゃですね。本当にコロナ禍では嫌なことばかりでしたが、LDHにとっては新しい時代のエンタメを作る会社になるための学びもたくさんあって、今思うと必要な試練だったように感じます。苦境の中だからこそLDHや自分たちが変わらなきゃいけないことに気づけましたし、「LDHが今まで体験したことのないピンチだからこそ、どうにかしよう」とタレントもスタッフも改めて結束しました。今ようやく回復の兆しが見えてきているところです。
棚橋 新日本でも、YouTubeで選手が直接自分のグッズを紹介するネットショッピングのようなコンテンツを新たに始めました。試合がないときでも選手とファンがリアルタイムでやり取りできるし、物販も盛り上がる。制限があったからこそ生まれたアイデアがいい効果を生んだので、この調子で大会の盛り上がりが戻ればむしろプラスになるはずです。
「THE RAMPAGEややFANTASTICSは、コロナ禍の煽りを一番くらってしまった」
――ライブや大会がストップしたことで、若いメンバーのデビューや成長が遅れたという話も聞きました。
HIRO LDHだけではないと思いますが、コロナと関係ないところでも日本のエンターテイメント業界が大きな変革期に入っていましたし、コロナ禍以前に一番勢いのあったTHE RAMPAGEなどは、さまざまな意味でコロナ禍の煽りを一番くらってしまったアーティストなのかなと。FANTASTICSも「さぁこれからだ」という時だったのですごく悔しいですが、全てが学びだと思い、その経験を参考にこの数年分を取り戻すため、いま必死に頑張っています。
棚橋 新日本も30代前半くらいまでの選手が割を食ったのは確かです。でも僕は、人生の浮き沈みって結局は同じ分量なんじゃないかって思ってるんですよ。だからこの3〜4年で思うような結果を出せなかった若手たちも、ここから必ず彼らの時代が来ると信じています。
――何かアドバイスをされることもあるんですか?
棚橋 技術的なことは教えられても、一番大事な心の部分は、本人が気づいて自ら覚醒するしかない。「俺が新日本プロレスを引っ張るんだ」という気概と勢いのある選手が出てくるのを待つしかないんです。努力を惜しまない選手にチャンスが来る環境を整えるのは僕の仕事だけど、そのチャンスをものにできるかは本人次第。だから最後は祈ります(笑)。
HIRO 僕らも同じですね。所属のみんなが活躍できるステージを用意することはもちろん、バックアップもできるだけしますが、最終的には本人の本気度、さらには運やタイミングにも左右される世界ですから。信じて祈るしかないですね。
――新しい才能を見つけるという点で、新日本プロレスの入門テストの厳しさは業界でも有名ですが、たくさんの志願者の中からどんな基準で選んでいるんでしょうか?
棚橋 書類審査で数十名に絞った後、道場でスクワットやブリッジなどの基礎体力テストがあります。入門テストでは200〜300回のスクワットが、入門後は1000回になる。この1000回というのが重要な意味を持っているんです。
HIRO スクワット1000回!? 半端ないですね。
棚橋 実際はスクワットなんて200回やれば体は温まるし、本来はそれで十分なんです。でも1000回やらせる。理不尽ですよね。
ただ、プロレスラーになると理不尽なことにぶつかる場面が必ずある。そういうときに打ち勝つ力があるのかを見極めたいんです。気持ちと肉体、両方を鍛えて理不尽さや苦労を乗り越えた選手は、その後もどんどん成長していきます。

