「いつもは絶対やらないんですけど…ちょっとそういうことに」
なるほど、つまり父親はデリヘルの客か。しかし、まだ口に出すタイミングではないので、私は頷いた。
「1人だけ……いつもは絶対やらないんですけど、ちょっと、そういうことになってしまった人がいて」
よし、喋ろう。
「本番行為は違法だというのは、とりあえず今は脇において、そのお客さんとの間で起きてしまった本番は、合意の上での行為ですか?」
「……」
彼女はチラリと卓上のスマホを見た。彼女自身の申し出により、このスマホは勤め先のデリヘルの店長と繋がっている。
「合意というか、けっこう強引に押し切られちゃった感じです。でも、むりやり、というわけではないみたいですが」
スピーカーフォンを通して、店長が言った。つまり、合意の上ということだろう。
「その本番行為があった後、お店としての対応は?」
「30万円、受け取りました」
「その日のうちに、彼女から報告があったので、うちから相手さんに電話を入れて『性感染症の検査』をしなければならないので、その費用と、あと検査の結果待ちの間の休業補償を求めました」
「先方は払ったのですか?」
「30万円、受け取りました」
「では、先方も本番行為を認めているわけですね」
「まあ、そうなんですが、うちの子は『ゴム付けて』って言ったと。ですが、先方は『そんなことは言われていない』と」
私は、彼女に目をやった。彼女は、私の目を見て逸らさなかった。まあ、しかし、目を逸らさないから、嘘をついていないということにもならないのが、この世界の常ではある。
デリヘル嬢が「中絶手術」に踏み切れなかったワケ
母体保護法は「人工妊娠中絶」に関して、妊娠の第一の当事者たる女性だけでなく、「配偶者」の同意も求めている。この配偶者には、事実婚の相手も含まれる。一方、相手の男性が事実婚も含め配偶者ではない場合は同意は不要だ。このような場合、女性は、ただ1人の決断において人工妊娠中絶を行うことができる。
相談に来たデリヘルの女性と客の男性は、当然ながら事実婚も含めた婚姻関係にはないので、彼女の人工妊娠中絶を阻む人はいないわけだが、では「すぐに堕ろします」ともいかない事情があった。彼女には、堕胎をするお金がなかったのだ。
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