2008年、香港で起きた16歳少女のバラバラ殺人事件。彼女はなぜリスクを犯してまで援助交際をしなければいけなかったのか? そして彼女の人生を終わらせた「人生最悪の出会い」とは? 実際に起きた事件などを題材とした映画の元ネタを解説する文庫新刊『映画になった恐怖の実話Ⅲ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)

写真はイメージ ©getty

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 2008年、香港で16歳の少女が殺害され、遺体をバラバラにされる事件が起きた。少女は生活のためネットで援助交際相手を募っており、犯人は彼女を買った男だった。2015年の映画「九龍猟奇殺人事件」は、この事件を題材とした実録スリラーである。

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騙され背負った借金返済のため売春を

 事件の被害者ワン・ジアメイ(王嘉梅)は1991年、中国・湖南省に生まれた。2005年、母親の再婚に伴い香港の公営住宅に移転。暮らしは貧しく、母親はゴミ拾いをし、ワンもフライドチキン店でアルバイトをして家計を助けていた。

 学校の成績は優秀だったが、義父との不仲もあり、母親に苦労をかけたくないとの思いから中学3年で中退。モデルを目指して、2007年に自称“芸能事務所”に入ったところ、騙され、約100万円の借金を背負ってしまう。そこで、インターネットの有料出会い系の売春フォーラムに「KIMI」の名前でアカウント登録、自撮りのセクシーな写真を掲載し、1泊1500元~2600元(当時のレートで約2万3千円~4万円)で客をとった。

 2008年4月27日、彼女と連絡が取れなくなった家族により、2日後の4月29日に失踪届が出され、捜査が始まる。犯人の目星はすぐについた。ディン・チータイ(丁奇泰。当時24歳)。5歳のとき交通事故で母を亡くし、自身も脳に損傷を負い、情緒疾患と学習障害に。特別学校に通うも中学1年で中退し、暴力事件を起こし15歳で少年院へ。その後は職を転々としながら酒と麻薬と買春の毎日。

 事件現場となったアパートで一人暮らしを始めたのは2007年6月からで、ワンの携帯電話の通話記録から彼女が最後に連絡を取り合っていたのが、ディンだと判明した。