石田 ただ、当時の自分にとっても、トレンディドラマで描かれる世界は背伸びしたシチュエーションでした。俺にも売れなくてイケていない時代はあったわけだし……。

――純一さんにもそんな時代が!

「こんな特徴ない奴はいらない」と言われたことも

石田 まだ20代の頃、地下鉄の切符が高いから歩いて帰っていたときのことを今でも覚えています。青山通りの大渋滞を見て、「こっちは電車にすら乗れないのに、世の中こんなに車に乗ってるやつがいるのか」って衝撃を受けた(笑)。その頃、役者として舞台には出ていたけど、1か月で7000円とかジョークみたいにお金にならないんですよ。あと何年くらい役者を続けたら俺も車が買えるんだろう……と思ったものです。

ADVERTISEMENT

――そんな下積み時代を過ごしていた純一さんが、のちにトレンディ俳優として、キラキラした世界の体現者となるから不思議なものですね。

石田 そうですね。だから、みなさんも希望を持って生きてほしい。俺は事務所のオーディションを受けたときも「こんな特徴ない奴はいらない」って言われたからさ。

――「特徴がない」とは辛らつな……。

石田 うちの事務所で活躍していたのは、永島敏行さんや本間優二さんや時任三郎さんだったから、そういう人たちと比べたらねぇ……。でも「いらない」とは言われたけど、社長に「どういうのがやりたいの?」と聞かれて、『マイアミ・バイス』って即答したわけ。

 たしかに永島敏行さんは農村の若者の苦悩を的確に表現できるけど、ヴェルサーチのスーツ着てフェラーリ・テスタロッサに乗った刑事役となると違うでしょう? 俺の答えを聞いて、社長が「なるほどね。じゃあ3年くらい置いてみようか」と言ってくれたんだよね。

 どっちが良い悪いじゃなくて、昔のタイプのドラマに合う役者もいれば、トレンディドラマに合う役者もいる。“普通の人だけど、ちょっとオシャレでかっこいい”みたいな役には、松田優作さんのようなバリバリの個性を持った人だと逆に違和感が出るんですよ。

――それで言うと、純一さんが演じた『抱きしめたい!』の二宮修治は文系のシティボーイで、「頑張ったら、自分もこうなれそう」と夢を与えてくれますが、松田優作のようなかっこよさはどんなに頑張っても……。

石田 なれない、なれない(笑)。

©深野未季/文藝春秋
最初から記事を読む 年収3億円→「ほぼゼロ」になったことも…石田純一(71)はなぜ逆境に負けないのか? 「“不倫は文化”スキャンダル」「都知事選騒動」があっても復活できた理由

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。