もしもドローンがあったら……
柏葉 砂川さんにお聞きしたかったんですけども、ドローン(無人機)の登場により、戦い方が大きく変わったと言われています。例えば、『小隊』の舞台である釧路とかでドローンがあったとしたら、戦闘の様式もかなり変わっていましたか?
砂川 どうでしょう、実際のところは分かりませんが、少なくともわたしが自衛隊時代に特に教えこまれたのは、「機甲戦闘力」、端的にいえば戦車をどうやっつけるかというところだったので、ドローンがあったとしてもやっぱりそういう戦術の基本みたいなところはあまり変わらないのでは、と思っているところがあります。つまりドローンを使って監視や攻撃はするんでしょうけれども、それはあくまで基本の戦闘を容易にするための運用方法ではないかな、ということです。
柏葉 ドローンの登場によって、砂川さんの本職だった対戦車ヘリコプターの需要がなくなるのではという報道もありますが、どうなんですか?
砂川 個人的には、日本ではまだまだ活用できる場面が多かったのではないかな、と。とはいえ、かつて自分が乗っていたという“補正”がかかってるので、かなりひいき目で見てしまっているわけですが(笑)。日本は山間部が非常に多いから、遮蔽物のない平地での運用と違って、ある程度、対空火器の脅威は制約されるんじゃないかなと考えてはいます。
こんなマンガや文学を読んできた
砂川 せっかくの機会なので、柏葉さんのマンガ遍歴についてお聞かせください。
柏葉 きっかけはやっぱり鳥山明先生の『ドラゴンボール』です。それが小学校2年生とか3年生ぐらいの頃。次に中学校になった時に一番印象に残っているのが大友克洋先生の『AKIRA』でした。
砂川 『AKIRA』の描き込みは凄いですよね。
柏葉 佐藤秀峰先生の『海猿』とか。『海猿』はシーンのコマ割りが凄くいいんですよね。伝えたい重要なセリフをキャラクターが喋るシーンじゃなくて、心情をあらわした情景にかぶせる。その作りがすごく好きでした。他にも井上雄彦先生の『スラムダンク』や『バガボンド』は夢中になりました。『バガボンド』の殺陣のシーンの作り方はすごく好きですね。すさまじい緊張感が伝わってきます。
実際に漫画を書き始めて須本壮一先生のアシスタントに入ってからは、たなか亜希夫先生の影響が大きいです。『軍鶏』などを描かれてますが、最近の作品では『リバースエッジ 大川端探偵社』の落ち着いた感じがすごく好きなんです。もちろん背景も含めて絵が上手いというのもあるんですけど、少年誌のようにキャラクター性が際立っているというよりは、ストーリーの中で伝えたいことをふんわり、やんわり伝えていくようなスタイルが好きです。ちなみに、砂川さんの文学への傾倒は、何歳くらいからなんですか?
砂川 実は全然遅くて、高校くらいです。それに入り口は司馬遼太郎でした。いわゆる文学、みたいなものに触れるのは、大学くらいだったかなあ。カフカとか安部公房とかブッツァーティとか、そういうやつです。そういうものを書きたいと思いつつ、書いたりもしているんですが、これがなかなかうまくいかない。
柏葉 それは意外ですね。
砂川 ただ、こうして見てみると実は『小隊』も結構不条理な話だったのかもしれない、と今は思っています。同じ現実を共有しているはずなのに、現場と上の方では見えている世界が違う。そしてこの現実と認識のズレをどう描くのか、というのが文学の本丸なのかなと個人的には思っている節があって。とはいえ、一番の不条理は全く経験も知識もない中、まるで予想もしていなかったマンガシナリオを書かなきゃいけないという今の状況かもしれません(笑)。
すなかわ・ぶんじ
1990年大阪府生まれ。元自衛官。2016年、「市街戦」で文學界新人賞を受賞しデビュー。22年、「ブラックボックス」で芥川賞を受賞。著書に『小隊』『臆病な都市』『越境』など。
かしわば・ひろき
1975年北海道生まれ。2007年、デビュー。著書に『映像ディレクター越智は見た 世界怪奇録』(原作・越智龍太)など。






