コミカライズが実現した背景

──続編については、夏以降に文春オンラインにて連載スタート予定です。さて、お二人はビデオ会議では何度か話されていますが、今回が初対面ですね。

砂川 そうですね。柏葉さんの作品を初めて見たのは、編集さんが持ってきた第二次大戦のイラスト集だったのですが、個人的には戦闘機や銃器といったものよりも、それが乗っかる背景や風景などの方にとても強い印象を受けまして。細かなところまでとても丁寧に描き込みをされるのだな、と。やっぱりそういう部分が決め手となり、この度お仕事をご一緒することになったわけですね。

柏葉 ありがとうございます。

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砂川 このあたりのことは別のインタビューで話したところ若干被るのですが、物語の主役はやっぱり物語であって、兵器ではないんですよね。リアリティを担保するために細密な描き込みはもちろん必要な反面、趣味性全開というのはやっぱり違うわけで。その比重が崩れちゃうと、物語のコアな部分が、あるいは作品の持ち味が薄れてしまうのでは、と思うんです。

柏葉 自衛隊の装備についての知識がなかったのが、逆によく働いたのかもしれません。もしも90式戦車がめちゃめちゃ好きだったら、あのシーンを長くして……みたいなことになっていたかもしれませんから。ただ、悩んだところもあって。小銃やピストルによって弾倉のサイズが違うんですが、実際に触ったり、重さを感じたことがないから、微妙にリアルに描ききれていない。砂川さんとしては、しっくり来ていない部分があるんだろうなと思っています。

砂川 いえいえ。作画の大変さはなんとなーく想像してはおりましたので。打ち合わせなんかでもお話をしましたとおり、身に着ける装具って、結構、人によって付ける位置だったり物が違うんですよね。ただマンガの場合、登場人物Aはコレをここにつけて、Bはここに……みたいなのを1話から最後までミスなくやり通すのは、かなり困難だろうな、と(笑)。

柏葉 絶対間違える(笑)。それでなくても装備が一つ抜けているだけで、マニアの方からはお叱りがありますから。でもそれは、それだけ熱心に見てくださっているということですから、ほんとうに有り難いことです。お叱りやご指摘は真摯に受け止め前向きに頑張ります。凹みますけど……。

砂川  お察しします……。

柏葉 『小隊』を描かせて頂いて、一番悩んだのが、戦闘シーンですね。リアリティを優先すると、訳が分からなくなる。ある程度、説明的な要素を入れつつ、分かりやすさを優先したんです。リアリティを優先すると、もっとごちゃごちゃっとした絵になるんです。例えば、偽装を本当にリアルに描くと背景と一体化してしまって、キャラが見えなくなってしまう。それらをカットすることによって伝えられる部分の方が、有益かなと思って。

砂川 そのあたりの匙加減はとても難しかっただろうなと思います。

柏葉 陣地とか、実はさっぱり分からなかった(笑)。そもそも、小隊って何人? 中隊はそれの何倍? 大隊は? 人数的な規模とかも分からないし。ただ、それをすべて説明してしまうと、物語の進行を阻害してしまう。

砂川 原作では、安達3尉とその周辺の小熊曹長など3名プラスアルファみたいな感じでキュッと絞った視点で全部書いて、それ以外は書いていないんです。それによってリアリティがグッと増したというのはあるかもしれません。俯瞰的に書いてしまうと、一瞬一瞬の空気みたいなものが失われてしまうのかな、と思って。

柏葉 見えないものは見えないし、分からないものは分からないという視点で砂川さんの小説も書いているし、そこを私も意識しました。それがリアリティにつながった部分もあるのかなと思います。