北海道を舞台に、侵攻するロシア軍と自衛隊との壮絶な戦闘を一小隊長の視点から描く──。コミック『小隊』は、元自衛官の芥川賞作家・砂川文次と北海道在住の漫画家・柏葉比呂樹がタッグを組んだミリタリー作品だ。

 ロシア軍による北海道侵攻という設定は、現在のウクライナ情勢と重なり、3月の発売と同時に大きな話題となった。北海道の書店では本書が山積みで大展開され、防衛省・自衛隊の専門紙「朝雲」の書評でも取り上げられた。

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 内容を簡単に紹介すると……宣戦布告のないまま、ロシア軍が道北と道東の2方面から北海道に上陸、橋頭堡を築いた。自衛隊は住民を避難させ、防御態勢を固める。にらみ合いが続くなか、小隊を率いる安達3尉は中隊指揮所から呼び出しをうける。「敵は明朝、行動開始と見積もられる」。いよいよ“ホンモノの戦闘”がはじまる……。

 反響を受け、このたび続編の制作が決まった。砂川氏がオリジナル原作を書き下ろす。続編決定を記念して、原作者と漫画家の特別対談が実現した。制作の裏側、キャラクター造形の苦労、リアリティとエンターテイメント性のバランス、そして気になる続編の構想について、語っていただいた。

続編の舞台は「あの街」

──発売から2か月余り経ちましたが、売り上げの勢いは止まらず、現在5刷、2万部を突破しました。ミリタリー系のコミックとしては異例の売り上げを記録中です。

砂川 原作の方は、軍事評論家の小泉悠さんに取り上げたていただいたのをきっかけにいくらか話題にはなったのですが、その後特に動きはなくて。それが“やはり”というべきか、2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が起きると、『小隊』を読んだという声をいただく機会がすごく増えて。きっかけがきっかけだけに、非常に複雑な心情ではあるのですが……。それから3年後、トランプ米大統領の再登場と自国第一主義的な世界情勢が本格化しつつある中で、アメリカが介入しないというような描写もある本作が今度はコミカライズということで、何かこう、現実と競争をしているような不思議な感覚です。

柏葉 こんなことがあるんですね。

砂川 最近の例でいえば『鬼滅の刃』とかが当てはまるのかなとは思うんですけど、もちろんマンガに限らず、どんな創作物でも、その時代の空気みたいなものと重なるとパンと跳ねるというのがあるんだろうなあ、と。

 

──さて、『小隊』はロシア軍と自衛隊が釧路市郊外で激突する場面で終わっています。続編はどんな感じになりそうですか?

砂川 今回「続編を」というありがたいお話をいただいたわけですが、その一方、「『越境』は長いから『小隊』と『越境』の間をつなぐような、安達のその後を……」という非常に難しいお題を頂戴していて、実は頭を抱えています(笑)。いまは、指揮系統の乱れた日ロ両部隊が釧路市内で衝突する、というような構想を練っています。

柏葉 今度は郊外ではなく、市内なんですね。

砂川 そうなんです。お題に沿う形で、かつある程度のリアリティを担保しようとなるとこうせざるを得ないかな、と(笑)。

柏葉 新兵器とかは出るんですか?

砂川 そこまで頭が回らなかったです(笑)。とりあえず、〈『小隊』のその後〉というのを無理くり考えてみてはいるのですが、時間というのが非常にネックだな、と思っています。というのも、現実の戦闘なり紛争というのは、どう考えても1週間とか1か月で解決するものの方が少ないわけで、『越境』では10年後というジャンプをしていたんでこの問題に触れなくて済んだわけなんですけれども、今回はそれと向き合わなければならず、それが課題だなあ、と。

柏葉 ご存じない方に説明すると、砂川さんが2024年に発表された『越境』は、ロシア軍の侵攻から10年後、無法地帯となった北海道東北部を舞台とした小説です。そこでは民兵との撃ち合いがあり、市街戦からの脱出劇があり、熊とまで戦う(笑)。それに比べ、今回新たに書き下ろされる続編では戦闘シーンだけにフォーカスする……そうなると、それ以外のシーンが難しそうです。

砂川 元々『越境』は『小隊』の世界を借りつつも、『小隊』を読まずとも、もっといえば『小隊』を無視して書いていたところがあったのですが、まあ、そのおかげというべきか、だから今非常に苦しい思いをしているわけですね(笑)。とりあえず、釧路市内を舞台に、安達のその後を展開ができれば、と考えています。