「トゥイさんは布団の上で横たわっていたが、何か不自然な感じがした。遺体を見たときに何で血がないんだと思った。布団にもシワ一つない。不思議でしょうがなかった。警察にも言った。死んだときに何でこんな形で……。不思議な遺体だった」
実は「被害者と不倫関係」だった犯人
一方、清川は事件の1カ月後に遅刻などが原因で運送会社をクビになり、生活の困窮などからひったくり事件を起こした。
その捜査ではトゥイさん事件は発覚せず、窃盗罪のみで起訴され、懲役1年2カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。その後、地元に戻ってコンビニで働き始め、そこで知り合ったのが下山由香里さんだった。
清川と由香里さんは早朝のシフトが重なることが多く、親しい関係になった。事件の半年前には男女の関係になったが、その直後、由香里さんは別にアルバイトしていたビジネスホテルの同僚の男性とも男女の関係となり、2人の間で揺れ動いた由香里さんは、清川とは別の男性を選び、清川には別れ話を切り出した。それに清川が納得せず、ヨリを戻すためにトラブルになっていた。
由香里さんの失踪当日、遺体発見現場近くのトンネル付近で由香里さんと清川が会っているところが目撃された。その現場には由香里さんが乗っていた軽自動車が乗り捨てられていた。
清川は由香里さんと会っていたことや、警察に「遺体を発見した」という通報をしたことは認めたが、次のような言い訳を重ねて殺害や死体遺棄は否認した。
「彼女を車に乗せて、『道の駅』へ行ったが、そこで口論になり、彼女は車から降りてしまった。自分はその日、コンビニの勤務のシフトが入っていたので、彼女をそこに置いたまま、店に向かった。彼女はその後、別のトラブルに巻き込まれて殺害された可能性がある。遺体を発見したのはドライブ中、たまたま彼女の死体が見えたから。自分は彼女と不倫関係だったので、彼女の夫にバレたらマズイと思ったし、犯人なら自分から通報したりなんかしない」
遺体から「右腕が発見されなかった」理由
だが、家宅捜索の結果、由香里さんのDNAを含む皮膚片が清川の車のトランク内にあったネックストラップから採取され、清川が所持していたデジタルカメラのメモリーからは由香里さんの遺体の画像が発見された。トゥイさんの遺体と同じように、由香里さんの陰部を撮影したものや、胸を切り裂き、手を差し入れて内臓を露出させた画像も残されていた。
由香里さんの遺体はほとんど動物に食い散らかされており、右腕が発見されなかった。着衣が周囲に散乱し、ほぼ白骨化。椎間板断裂のケガを負っており、刃物で背中を部分切断された跡もあった。
検察は「清川が被害者に暴力を加えて死亡させ、山中に捨てた」と断定。遺体発見現場が標高1000メートルを超える山岳地帯で、地元住民が誰一人、遺体に気付かなかったという状況を立証するため、地元の郵便局員などにも法廷で証言させた。
