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巨人・亀井善行はなぜ、ファンにも首脳陣にも愛されるのか

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/04
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亀井が持つチームへの献身性

 もうひとつ、亀井を語る上で切っても切り離せないのが、献身性だと思う。
 
 印象に残っている2つのシーンがある。08年のシーズン中、外野手登録だった横浜の内川聖一が突如として一塁を守るように命じられたことがある。その年はキャンプからずっと外野の練習をしていたためミットの用意すらなく、チームメートの石川雄洋から借りたファーストミットで出場した。その日の試合後、内川は明らかに怒っていた。

「ほかの外野手より自分が劣っていると思ったら、グラウンドに来る資格はないので」

 当時の大矢監督は打撃の良い内川に出場機会を与えるために苦肉の策をとっただけで、内川もそれは分かっていたと思う。それでも、外野手としてのプライドを示す言葉があふれ出た。結果的にこのコンバートは大成功で、この年内川は右打者史上最高打率となる3割7分8厘をマークして首位打者に輝く。

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 一方、2012年の9月、公式戦で初めて二塁の守備に就いた亀井の試合後のコメントは次のようなものだった。

「僕はポジションがどうのこうのという立場じゃない。監督が使ってくれるところで頑張るだけです」

亀井のチームへの忠誠心や献身性が「愛される」大きな要因の一つなのかもしれない ©文藝春秋

 2人は同い年だが、チーム状況も当時の年齢も違う。どちらの態度が正しいという話ではない。内川はその強烈なプライドと反骨心を武器に球界を代表する打者に成長し、名球会入りも果たした。亀井もまた、貢献度の高いチームプレーヤーとして6度のリーグ優勝を経験した。36歳を迎える今季もバリバリの1軍選手として活躍を続けている2人はどちらも正真正銘のケイスケ・ホン……いやプロフェッショナルと言っていいだろう。野球選手としての成功にはいろいろなアプローチがあるというだけだ。そして勝負強さ、ユーティリティ性、5ツールといったものに加え、亀井が持つチームへの忠誠心や献身性は、彼がファンからも首脳陣からも「愛される」大きな要因の一つになっているのだと思う。

 正直、「すごい選手」ではないかもしれない。だが、記録には残らなくても「昔、亀井といういい選手がいたんだ」と語り継ぎたくなるオンリーワンの魅力。阿部と同じユニホームでプレーしたことはもちろん生涯の宝になるだろうが、亀井と同じチームだったこともまた、自慢したくなるワンシーンに違いない。

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