「何度も言うように、失敗しているときがチャンスなんですよ」

 サッカー日本代表の本田圭佑は以前『Number』のインタビューでそう語った。大会直前に監督交代のゴタゴタもあり、開幕前の日本列島はどこか冷めた空気すら漂っていたロシアW杯だが、サランスクの奇跡やセネガルとの死闘で世の中の注目度も高まってきた。やはり重要なのは過程よりも結果だ。すべてのアスリートは目の前の結果と戦っている。

 もちろんプロ野球選手も同じことだ。特にNPBでプレーする外国人選手を見ていると、彼らに求められる成績のハードルの高さに驚く。チームが停滞すると「高い給料を貰ってるのに」なんつって球場で野次られるのは、たいてい助っ人組とFA移籍組だ。これは自分も原稿を書く際に気をつけていることだが、どうしても野球ファンは生え抜きに甘くなるし、さらに言えば期待の若手には小遣いをやたらと渡す親戚のおじさんレベルで激甘だ。その若手選手が歳を重ね、普通の選手になった時、また次の若手に興味の対象が移る。アイドル業界でもiPhone新機種でも歴史は繰り返される。いつの時代も、人は新しいものが好きだ。そして、簡単に過去を忘れてしまう。

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昨年の功労者マギーに吹いた逆風

 例えば、最近のケーシー・マギーの立場も、そう実感することが何度かあった。今季のマギーは序盤こそそれなりの数字を残したが、6月交流戦打率.192で、9日の西武戦からは8試合連続でスタメンを外れ、ルーキー田中俊太を3塁起用する試合が続いた。危機感を抱いた背番号33は21日イースタンのロッテ戦に志願出場。リーグ戦再開後は5打席連続安打を記録するなど復調しつつある。

 振り返ると、昨季後半のマギーはチーム事情で2番を打ち、慣れない二塁を守り、にもかかわらずチーム打撃3冠にリーグ新記録の48二塁打と素晴らしい成績を残した。間違いなく野手MVPはマギーだった。それなのに35歳の元メジャーリーガーは数試合不振が続くだけで、代わりにルーキーを使われてしまうリアル。勘違いしないで欲しいが、三拍子揃った田中は素晴らしい選手だ。だが、これが長い時間をワリカンしてきた生え抜きスター選手なら簡単にスタメンを外されることはなかっただろう。

「活躍した1年目はみんなが私を神様のように扱った。ところが2年目は監督もコーチも若い投手を育てることに必死になった。それはいいが、私が敵にならなければいけない理由が分からない」

 元・巨人のビル・ガリクソンは『週刊ベースボール』の91年大リーグ特集号インタビューでそんな言葉を残している。なんてシビアな世界なんだろう。助っ人選手には過去も未来も関係ない。彼らは徹底的に“今”を生きている。だから、そのプレーは切実で時に見る者の心の奥底に響くのである。

交流戦ではルーキーの田中にスタメンを奪われる試合が続いたマギー ©時事通信社

悩める元本塁打王ゲレーロの現在地

 そして、もう一人。開幕戦で巨人軍第88代4番打者を務めた男も苦しんでいる。今季中日から移籍してきたアレックス・ゲレーロだ。ここまで60試合で10本塁打、29打点の成績を残していたが、交流戦終盤にコンディション不良で2軍落ち。打点の少なさやソロアーチコレクターぶりは確かに物足りないが、それ以上にゲレーロがいない巨人打線に迫力不足を感じるファンは多いと思う。昨季のチーム最多本塁打はマギーの18本、ゲレーロは広いナゴヤドームを本拠地にしながら、その倍近い35本塁打を放ち本塁打王に輝いた。

 いつだったか元ヤクルトの名捕手・古田敦也が司会を務めるテレビ番組『スポーツクロス』で「対戦して一番嫌だったバッターは松井秀喜」と語っていたのをよく覚えている。「単純なことですよ。ホームランを打つからなんですよ。僕らの感覚的に言うと、打率3割打とうが、4割打とうがシングルヒットしか打たない人は別に怖くない。打っても一塁じゃないですか。松井はひとりで1点取るわけですよ。ランナーがいたら、一気に3点とか。こっちはコツコツやって2点取っても、一振りで3点。本当に嫌でした」

 なるほど。相手バッテリーからしたら、元本塁打王クラスの長距離砲はラインナップに並んでいるだけで怖いのである。いったい今のゲレーロはどんな状態なのか? 6月22日金曜日にイースタンリーグの日本ハムvs巨人戦が行われる鎌ヶ谷スタジアムで確かめることにした。