食品原料の専門商社〈TSフードサービス〉に勤務する3年目の社員高宮麻綾。
親会社主催のビジネスコンペで発表した新規事業案が評価され、晴れて事業化の権利を獲得する。
しかし急転直下、麻綾の考えた新規事業案は白紙撤回に。理由は“リスク回避”。「なんであんたたちの意味わかんない論理で、あたしのアイデアが潰されなきゃなんないのよ!」
怒りを爆発させた麻綾は社内外を駆けずり回りリスクの調査に乗り出すも、過去に起こったある事件の存在を知ってしまう。

ミステリー要素のあるお仕事小説

成生:読後感も最高ですよね。「読者の想像にお任せします」と、あやふやに終わらせる作品もあると思うんですけど、この作品は凄く心地よく着地してくれます。

反中:お仕事小説としての読み応えはもちろんですが、ミステリーやサスペンス要素も入っているおかげでグイグイ読めました。キャラに自己投影もできるし、エンタメ的な面白さがこれでもかと凝縮された作品ですね。

城戸川:この作品はミステリー小説というよりは、ミステリー要素のあるお仕事小説にしようと思って書いたので、そういう風に読んでもらえたのは凄く嬉しいですね。

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紀伊國屋書店新宿本店 反中啓子氏

現役サラリーマンだからこそ表現できるディテール

市川:僕はこの作品の、ディテールが本当に素晴らしいと思っています。麻綾が意地悪な上司から命令されて、山のような資料をPDF化して自分宛てに送信するっていうシーンがあるんですよ。

 これがJPEGだったらどこかで使われるかもしれないですけど、PDFってもうそれで終わりじゃないですか。もう使われない資料だけど一応保管されている。いわば墓場行きなわけですよね。何も生み出さない作業を押し付けられる絶望感すごくわかるなって思いました。

 “PDF化して自分宛てに送信”って一編の詩のようですよね。

ジュンク堂書店池袋本店 市川淳一氏

城戸川:PDF化して自分に送ってファイルの名前を変えてクラウドに格納するってところまでがワンセットですよね。要はバリバリ働き盛りの麻綾が単純作業をひたすらやらされるわけですが、会社で働いているからこそ書けたポイントだと思います。