ホチキスの針を外し、まとめてコピー機に読み取らせ、「PDF化して自分宛に送信」のボタンを押し、戻ってきた紙の束を再びホチキスで綴じる。それを五セットくらい繰り返して座席に戻り、自分宛に届いているメールに添付されているPDFファイルを開き、書類のタイトルを入力して、クラウドにアップロードする。誰とも何も話さず、これをただひたすらに繰り返す。(p.181)

市川:あと、同期の桑守が出張に行かないことに対して、麻綾が怒るシーンがあるんですよ。「国内出張ひとつもできないわけ?」って。それに対して桑守は、「社内システムで出張申請しても上長承認がないから行けないんだ」って言い返す。稟議が通らないと身動きが取れなくなるっていう会社員あるあるを噛ませてくるところが、お仕事小説としての妙味だと思いました。

「あんた、主管部局の担当者なのに一度も出資先に出張してこないなんて頭おかしいんじゃないの?(中略)新幹線のチケットの買い方、手取り足取り教えてあげましょうか?」「(前略)出張申請用の社内システムがあって、それには直属の上司の事前承認が必要で」(p.242)

個性豊かなキャラ造形

成生:食事のシーンも特徴的ですよね。僕は麻綾の雑な食べ方が凄く好きです。パエリアのおこげを乱暴にザクザクこそげ落とすシーンとか。苛立ちが表れていますよね。

 麻綾らしいなって思いました。

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城戸川:注目していただいて嬉しいです。元々食べるシーンを描くのはあまり得意ではないんですが、麻綾なら「この場面ではナイフとフォーク使わないだろうな」とか「優雅にナプキンで口は拭かないだろうな」とか、手探りで書いている部分もあったので、安心しました。

市川:後輩の天恵(あまえ)と作戦会議するときにはチキン南蛮を頬張るシーンもありましたね。それ以外にも作中に何度もチキン南蛮が出て来るのが印象的でした。

城戸川:僕、チキン南蛮が大好物なんですよ。好き過ぎるあまり麻綾の出身地を宮崎にしてしまいました。地元の人には「なんで自分の出身県の山形じゃなくて、宮崎なの?」って言われることもあるんですけど、どうしても大好きなチキン南蛮と麻綾を絡めたくて。ただ、実は宮崎には一度も行ったことがないので、今後麻綾の帰省シーンを書く時にリアルに描写できるか心配ですね(笑)。

市川:そんな面白い裏話があったとは驚きです。次回作以降、麻綾の地元の宮崎がどんな風に描かれるのか要注目ですね。