ピアノ少年とホストの特別な関係
『あれは閃光、ぼくらの心中』(原作:竹宮ゆゆこ 漫画:つきづきよし)はこんな「ありえない」出会いから物語の幕が上がる。
第1巻の読みどころはなんといっても、図々しい嶋とそれに反抗する弥勒の小気味良いセリフの応酬だ。詳細なやり取りを描写することは、本書を読む楽しみを奪ってしまうので割愛するが、読みだしたら止まらない原作の言葉の奔流が、見事に漫画として昇華されていることは明記したい。
突然同居することになった2人は、最初こそ「帰れ!」「帰らない!」の応酬が挨拶のようだったが、やがて、友達でもなく家族でもない特別な関係へと変化していく。上手くいかない現実から逃げてきた嶋にとって、この生活は理想のそれだったのだろう。対する弥勒もはじめは嶋を拒絶しつつも、だんだんと心を開いていく様子が分かる。
永遠に見ていたい2人の生活はきっと、2人にとっても永遠に続いてほしい幸せな時間のように思える。少なくとも、嶋にとってはそうなのだろう。しかし、弥勒の事情は複雑なものがあるようだ。時折、陰のある表情を見せる25歳のホストにも何か逃げている過去があるのだろうか――?
心に傷を抱えた2人の出会いは必然であり、同じ逃げてきた者同士だからこそ、特別な関係を築けたのかもしれない。そう思うと、2人のハチャメチャな同居生活は、刹那的で愛おしいものとして読み手の心に迫ってくる。
本当にこの生活は刹那的に終わってしまうのか、それはまだ本書では描かれない。しかし、かつてあこがれた、もしくは今望んでやまない「逃げた」あとの理想の生活に、漫画の中でだけでも浸ってみてはいかがだろうか。



