死は日常の中にあっけなく訪れる

――作品を拝見し「こういう経験が自分もあった」と子供時代を思い出し、得も言われぬ感情や状況を呼び起こされました。思春期の時代を監督はどう捉えていますか。

 子供と大人の狭間で、どちらの要素も混在している時代だと思います。人間誰でも多面的だと思いますが、さらに本人が意識していない中で、角度によって見え方や色が変わったりと、ふらふら浮遊してるような時期じゃないかなと思いました。

――背景の1980年代は早川監督の子供時代ですが、この時代をどのように感じていますか。

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 経済が右肩上がりで良くなり、これから豊かで良いことがあるという希望がありながらも、家族やコミュニティの繋がりは希薄になり始めた時期かと思います。映画では人がどんどん孤立し、同じ家に暮らす家族でもそれぞれがわりと1人で、家族以外のところに繋がりや救いを求めているような姿を描きました。80年代が物語の背景にあるのは、すごく必要だったなと思います。 

『ルノワール』より ©2025『RENOIR』製作委員会 / International Partners

――今回カンヌの他のコンペ作品は、人間が爆発して死ぬなどグロテスクで強烈な死が目立ちました。一方、本作では死は日常に入り込み生活と同時にあるので異質です。死の描き方について何か意識されましたか。

 私も父など一番身近な人が死んだ経験をした時に、「死はなんてあっけなく、 スルッと日常の中でその瞬間が訪れるんだろう」という印象がすごく残っていました。映画やドラマのように泣いてすがったり、手を握って泣いたりみたいなことが全くない中で死んでいったのを覚えています。死はふっと静かに訪れるものという印象が、自分の中にあるのかもしれないですね。

相米慎二監督から受けた影響

――是枝裕和監督は本作を、「すごく相米(慎二)監督を感じます。女の子の中にある優しさと悪に近い部分もバランス良く描かれ、シリアスなのにユーモアもある」と表現されました。 早川監督が相米監督から最も影響を受けたと思うのはどの辺りですか。

 高校生の時に『お引越し』を映画館で見て、その後ずっと(主人公の)レンコちゃんが頭の中にいっぱいになるくらいでした。彼女がとにかく魅力的で、 こういう女の子を主人公にしたいという思いがあったんですね。映像表現で言えば、火が印象的に描かれていたり彼女がじっと見つめる眼差しなどにも影響を受けていると思ってます。

『ルノワール』より ©2025『RENOIR』製作委員会 / International Partners

――カメラマンは『PLAN 75』から続いて浦田秀穂さんです。またお仕事をしたいと思った理由は何でしょう。

「こういう絵が見たい」という時に、説明しなくてもツーカーで分かってくれるのです。絵の作りに関しては完全に浦田さんに任せられ、私は演出に集中ができるという理想的な状況が得られました。あとは人柄がものすごくポジティブで明るく力強くて、映画の牽引力になった方です。ベテランで私より年上の方なのに、私に対して「監督」と言って敬語で話してくださり、教え諭すような態度は全く取られないのです。