東京都武蔵野市吉祥寺の路上で、うずくまって苦しんでいる男性が死亡した事件。死因は腹部を刃物で刺されたことによる失血死、加害者は交際歴5年になる恋人だった。なぜ彼は事件当日も愛し合った彼女に殺されたのか? 昭和60年に起きた事件の顛末を、事件サイト『事件備忘録』を運営する事件備忘録@中の人の新刊『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

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吉祥寺の路上で苦しんでいる男性

 昭和60年12月21日。東京都武蔵野市吉祥寺の路上で、うずくまって苦しんでいる男性を通行人らが取り囲んでいた。そこへ、たまたま巡回中の武蔵野署員がやってきた。119番通報したものの、男性は搬送先の病院で死亡した。

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 死因は、腹部を刃物で刺されたことによる失血死だった。死亡したのは、武蔵野市吉祥寺本町在住の会社員・久保田茂靖さん(当時30歳)。傷は11センチと深く、肝臓を傷つけたことからの失血死だった。

 警察がとりあえず久保田さんの自宅マンションを訪ねると、そこには若い女性が茫然自失の状態で座り込んでおり、その手にはパン切り包丁が握られていた。

 状況と女性の供述から、この女性が久保田さんを刺したとして、殺人未遂の現行犯で逮捕した。逮捕されたのは杉並区浜田山在住の会社員・立花詩織(仮名/当時27歳)。

 詩織はこの年の夏ごろから、この吉祥寺の久保田さんの部屋で半同棲生活を送っていたという。ふたりは福岡の西南学院大学の卒業生で、学生時代から交際していた。その期間は、すでに5年になっていた。

 詩織の供述では、その日、久保田さんが別の女性とも交際していた過去を知って口論となり、そのときの久保田さんの態度にカッとなって刃物を持ち出し、真正面からパン切り包丁を前へ突き出すような格好で刺したという。本人には殺害する意図はなく、その日の口論から咄嗟にした行動だったと供述していたが、検察は詩織を殺人で起訴した。

 昭和61年、一審では未必の殺意が認定されたが、控訴審において東京高裁は破棄自判、詩織の殺意は認められないとした。その上で、懲役4年、未決勾留日数270日を算入し、「原審及び控訴審の訴訟費用も負担させない」と言い渡した。

 判決は確定した。