内心、「来た!」と思った

 塩田 僕の見るところ、2016年から明らかに週刊文春の存在感が変わったと感じていまして。

 竹田 タレントや政治家の不倫、キャスターの経歴詐称、甘利明(あまりあきら)大臣(当時)の金銭授受など、多くのスクープ記事が話題になって、「文春砲」などと言われるようになったのが2016年でした。

 塩田 あの年を境に、文春が市井(しせい)における情報の中心になったように見えました。こうした情報の中心地に身を置くと、書いたものが予言的に的中していく、周囲の様々な人に突き刺さっていくという、物書きとしての肌感覚がありました。なので、とにかくこの中に入りたいと思ったんですね。現在の週刊文春こそが、僕の中では情報発信のど真ん中だと。

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 そして、これは根拠のない勘だったのですが、文春は必ずどこかのタイミングで僕に小説を書かせてくれるはずだと確信してもいました。このテーマは週刊文春で連載するからこそ面白いんだと。そこで、依頼される前から、SNSに関する怒りとか苛立(いらだ)ちを、一つ一つiPhoneにメモしていました。そしたら本当にすぐ依頼があって、内心、「来た!」と思ったんですよ(笑)。

第173回直木賞にもノミネート

 竹田 ありがとうございます。2023年の6月、『踊りつかれて』の連載がスタートすると、おっしゃるとおり、まさに予言的なことが起こりましたね。私は連載開始の翌月から編集長に就任するんですけれど、その年の12月、松本人志(まつもとひとし)さんのスクープを出しました。『踊りつかれて』にはお笑い芸人の天童の話が書かれていたので、正直、驚きましたし、現実とリンクしているようで、毎週ドキドキしながら読んでいました。

 塩田 ジャニーズにしても、松本さんの問題にしても、キーとなる一報を出したのは週刊文春です。メディアの市場規模が最大限に(ふく)らんだのが1990年代半ばで、同時期に飛躍したのが芸能界ではジャニーズと吉本興業でした。その象徴がSMAPとダウンタウンだったと思うのですが、これら二者に対して週刊文春が相前後して記事を出し、大きなインパクトを与えたのは果たして偶然だろうか、マスの解体が本格的に始まったのではないか、と。90年代に生まれた大きなマス、僕らが大学生の頃には壊れるはずがないと思っていたマスが、今、崩れつつある。これはもはや必然の流れで、文春の記事の内容ももちろんですが、SNSが関わっていると考えています。