米軍の攻撃がイラン国民を結束させる可能性も

 トランプ氏はイスラエルという勝ち馬に乗り、イラン攻撃に加わったが、事態はそう簡単ではない。自衛隊の元陸将A氏は米軍による攻撃前、「トランプは無条件降伏と言っているが、米軍がイランに進駐するという意味ではないと思う」と話していた。「米国は(占領政策が失敗した)アフガニスタンやイラクなどで何度も痛い目にあっている。無条件降伏とは軍事的な占領ではなく、核協議での完勝を目指すという意味だろう」(同)。

 米国メディアによれば、米軍は攻撃前、イラン側に体制転覆が目的ではないと伝えていたという。ただ、攻撃によって、外交による解決は絶望的になった。イランは核開発で痛手を負ったが、同時に核兵器の必要性も痛感しただろう。今後、再び秘密裏に核開発を推し進める可能性が高い。

 イスラエルはイラン最高指導者のハメネイ師殺害までほのめかしている。これまでの経緯から考えて、あながちブラフとも言えない。ネタニヤフ首相は19日、「我々は体制崩壊を狙っているのかと聞かれるが、結果としてそうなるかもしれない」と語った。逆に米軍の攻撃は、もともと国内に不満分子が多かったイラン国民を結束させる可能性がある。米スティムソンセンターのバーバラ・スラヴィン特別研究員は、すでに13日付の論考で、テヘランの関係者が「イランの政治的な分裂は消え去った」と伝えてきたと明らかにした。米軍の攻撃で、イラン市民の愛国心に火がつくだろう。

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トランプ大統領(左)とイランの最高指導者ハメネイ師 ©︎時事通信社/AFP PHOTO HO KHAMENEI.IR Alex WONG Getty Images

今の米ホワイトハウスはまともに機能していない

 一方、別の元陸将B氏は「無条件降伏だとか排除だとか、これが米国大統領の言葉かと思うと暗澹たる気持ちになる」と語る。B氏は米軍の攻撃前、「トランプ政権による軍事オプションの決定は極めて粗雑になる可能性すらある」と語っていた。

 B氏はその一例として、今年3月にイエメンの反政府武装組織フーシを攻撃する際に交わされた、トランプ政権の高官たちのやり取りからも歴然としているという。米アトランティック誌が暴露した、民間の通信アプリ「シグナル」を使ったやり取りによれば、バンス副大統領が「欧州をまた救済するのは嫌だ」と投稿。ヘグセス国防長官も「欧州のただ乗りを嫌う気持ちに完全に同意する」と応じていた。