――そこから選挙戦を経て、博士に対する印象はどのように変わっていきましたか。

青柳 好きになっていった。それに尽きると思います。

 

撮影を続ける中で変わっていった関係性

青柳 最初のうちは本当に手探りで、どういうポジションで、どれくらいの距離感でカメラを向ければいいか、ずっと悩んでいました。そもそも、博士がどの程度本気なのか、確信が持てていなかったんですね。もともと、博士が立候補を決意したきっかけは、SNS上での投稿をめぐる名誉毀損訴訟でした。2022年2月、博士は松井一郎・当時の大阪市長に関するYouTube動画のサムネイルを自身のTwitterで引用リツイートし、それに対し松井氏から即日「訴える」とのリプライが届いたんです。それから博士は、「権力による言論封じ」とも言われるスラップ訴訟の問題を広く社会に伝える必要を感じ、「反スラップ法」の制定を掲げて出馬を決意するに至りました。ただ正直なところ、社会を変えたいというよりは、自分の問題を知らしめたいという思いが強いのかなと思っていました。

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 それゆえに、最初の映画のイメージとしては、『レスラー』(ダーレン・アロノフスキー、2008)のようなテイストでした。落ち目のプロレスラーの「最後の輝き」に迫る作品ですが、博士も選挙戦で負けたとしても、本気度が一瞬でもカメラに映れば、同様の輝きは観客に伝わるんじゃないかと思ったんです(笑)。

 しかし、そこから距離は変化していきます。博士の演説の面白さや、毎日ネット上で日記を更新するような貪欲な発信力にその凄さを感じましたし、ずっと博士と行動をともにしたことによって、関係性もできていったんです。

『選挙と鬱』より ©ノンデライコ/水口屋フィルム

 その関係性はたとえば、「マムちゃん戦略」のシーンに生かされています。博士は演説について、町山さんから「毒蝮三太夫感が欲しい」というアドバイスをいただいていました。つまり、もう少し毒舌感が欲しいということで、博士も納得していたんですが、ただ街宣においては、それを忘れがちになっていたんですね。なので僕が横で「マムちゃん! マムちゃん!」と叫び、それで思い出した博士がマムちゃんの感じを出したというシーンができました。そうした過程の積み重ねで、博士には国会議員になってほしいし、なるべき人だとも感じられるようになりました。