「推し活」への懸念

――選挙戦のおよそ30日間のなかで、青柳監督は何を学ばれたと感じますか。

青柳 まず、選挙のノウハウの面白さですね。選挙アドバイザーの堤昌也さんが途中からチームに入られて、選挙活動のコツをいろいろと伝授されたんです。詳しくは映画を見ていただければと思いますが、たとえば街宣車の速度はどれくらいがいいとか、チラシはどれくらいを用意すればいいとか、また効果的にさまざまな地域を回る方法などですね。一つひとつがとても面白くて、日々発見の連続であったと思います。

 ただ、そのいっぽうで、「これだけか」とも思いました。僕自身も選挙には素人だったんですが、今回の博士に限らず、選挙においてはどれだけの人の注目を集めるかということばかりに目が行くような感じで、政治家が個別に掲げる政策の是非など、本質を伝えることは二の次になっていると感じたんです。

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――博士の選挙戦は、エンターテインメント性が豊かでとても面白かったです。博士が安倍晋三さんや麻生太郎さんのものまねをされたり、選挙チームの芸人・三又又三さんがウルトラソウルを叫ばれたり……。そのいっぽうで、青柳監督がおっしゃられたように、政治家としての詳細なスタンス、思想については伝えにくい部分もあると思いました。また、近年では選挙の「推し活」化、つまり選挙が、単純な人気投票になってしまっている点にも警鐘が鳴らされていますが、そうしたことについてはどのように思われますか。

青柳 じっさいに、いわゆる多くの「推し」に支えられている政治家は多いと思います。小泉進次郎さん、吉村洋文さん、玉木雄一郎さん、山本太郎さん……。みなさんイケメンですよね(笑)。「推し活」化は怖いと思いますが、ただ、まずはその政治家を知らないことには、個別の政策に目が向くこともないと思うので、入り口としてまず自分のことを知ってもらう活動に、みなさんが努力されているのだとも思います。

 問題は、その「入り口」よりも先に、なかなか進まないことにあるのかなあと。僕は投票には行くほうなんですが、綿密に候補者を調べるようなことはこれまでしていませんでした。選挙においては投票マッチングのサービスを使い、そこで出てきた自分の考えに一番近そうな候補者にとりあえず入れるという感じで、それ以上に考えを深めるようなことはなかったんです。自分が投票した人がどんな経歴の人で、選挙の後はどうなったかということはまったく考えてこなかったのがこれまでの半生でしたので、選挙を「マツリ」のような特別なものとして捉えるのではなく、一人ひとりが日常的に政治の話をするとか、「政治」をより生活に根差させることが必要ではないかと思います。

 

撮影:鈴木七絵/文藝春秋

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