『選挙と鬱』は、2022年7月投開票の参議院議員選挙にれいわ新選組から立候補し、見事比例区での当選を果たした芸人・水道橋博士の約30日間の選挙戦と、その後うつ病で議員を辞職し、再出発の道を歩んでいく氏の姿に迫るドキュメンタリーだ。

 監督は、自身がウーバーイーツの配達員として東京をめぐる姿を記録した『東京自転車節』(2021)を発表し、大きな話題を呼んだ青柳拓さん。「自分が選挙のドキュメンタリーを撮るとは思わなかった」と語る青柳監督は、どのように作品に「自分の色」を込めたのか。後半では、作品の世界観の構築や、もともとは「選挙戦」のみで全体を構成していた最初のバージョンの作品が、『選挙と鬱』に結実するまでの過程などについて、お話をうかがった。(全2回の後編/前編を読む)

撮影 鈴木七絵/文藝春秋

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『桃太郎電鉄』が世界観の軸に

――本作は、テロップの字体や効果音など、ちょうどテレビゲームのような世界観で全体が統一されています。実際に青柳監督はご自身のnoteでも、ゲームの強い影響を語られていますが、こうしたエフェクトを使用された理由と、本作に影響を与えたゲームについてお教えいただけますか。

青柳拓(以下、青柳) 博士の選挙戦を見ていく中で、ゲーム的なエフェクトが自然に導き出されてきたような感じですね。たとえば、作中では桃太郎の格好をした博士が、当時の岸田政権を揶揄して「今25年コースでキングボンビーがずっとついてる状態です」というシーンがあります。キングボンビーとは何かというと、『桃太郎電鉄』に出てくる貧乏神のキャラクターですね。また、選挙ではチームはピンクの街宣車に乗り続けていますが、ピンクは桃鉄を象徴する色でもあるので、博士自身が「ゲームっぽさ」を志向していたことが、まず言えると思います。

『選挙と鬱』より ©ノンデライコ/水口屋フィルム

 また、僕自身がさまざまなゲームを、博士の姿勢に感じたことも大きいですね。いろんな個性のある方たちが、選挙チームとして「冒険パーティー」のように集まって、しだいにレベルアップしていくRPG的な過程はまさに『ドラゴンクエスト』でしたし、博士が麻生太郎さんとか、他政党の大物政治家のもとに乗り込んで挨拶をする「敵陣訪問」戦略は、『信長の野望』に出てくる戦略でもあります。そうしたこともあって、ゲームと選挙戦が自然と結びついていきました。