『選挙と鬱』は、2022年7月投開票の参議院議員選挙にれいわ新選組から立候補し、見事比例区での当選を果たした芸人・水道橋博士の約30日間の選挙戦と、その後うつ病で議員を辞職し、再出発の道を歩んでいく氏の姿に迫るドキュメンタリーだ。

 監督は、自身がウーバーイーツの配達員として東京をめぐる姿を記録した『東京自転車節』(2021)を発表し、大きな話題を呼んだ青柳拓さん。4本目の劇場公開作となる『選挙と鬱』は、『東京自転車節』を絶賛した映画評論家の町山智浩さんからの、ある「誘い」が起点になったという。前半では、青柳監督の博士との出会いや、撮影を続ける中での印象の変化、また自身の政治観や日本の選挙に感じる問題などについて、お話をうかがった。(全2回の前編/続きを読む)

撮影 鈴木七絵/文藝春秋

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――本作を作られたきっかけについて、まずお話しいただけますか。

青柳拓(以下、青柳) きっかけは2022年の6月、町山智浩さんがTwitter(現X)で、「水道橋博士の選挙を映画に撮ってくれるドキュメンタリー映画作家の方はいませんか?」という募集をされていたことでした。町山さんと博士は友人で、またその直前に水道橋博士さんがれいわ新選組から参議院議員選挙に出るというニュースは見ていたので、へーっとなったんですけど、それから少しして、町山さんから僕に直接メールが来たんです。「青柳監督はご興味ありますでしょうか?」と。自分が選挙のドキュメンタリーを撮れるかということについては正直不安でしたが、博士は「面白い選挙にする」と豪語しているらしく、そこにわくわくして、快諾をしたんですね。当時は、博士のことはテレビでよく見る芸人さんといった程度の知識で、よくは知らなかったのですが、まずは会おうと思い、その2日後には博士に会いに行きました。それは阿佐ヶ谷ロフトで、博士が主催するイベントにおいてでした。

水道橋博士の「ファーストインプレッション」

――水道橋博士に、初めて直接会った時の印象はいかがでしたか。

青柳 そのオープンな姿勢にまずびっくりしました。直接お話ができたのは、イベント終了後に博士が観客に握手やサインをしているタイミングだったんですが、そこで僕はイベントの感想を口にしつつ、「青柳です、命がけでやります」とお伝えしました。それは大げさなことではなくて、むしろ自分には体を張るくらいのことしかできないという思いからだったんですが、そうすると博士は「はい、ありがとうございます」と言ってくれました。その時の博士は、初対面で関係性がまだできていないこともあり、無表情ではありました。しかし、同時に「24時間いつでもどこでも撮ってください。僕は著作権フリーですので」とも言ってくれて、そこに驚いたんですね。期待と不安が入り混じってはいましたが、大きな可能性を感じられました。