辞職後に追加された「うつのフェーズ」
――本作は、全体の4分の3が「選挙戦」、残り4分の1が「辞職とその後」といった形で構成されています。映画はもともと博士の選挙戦を追う作品として構想されていたとうかがっており、博士が議員辞職をした時点でいったんリセットせざるを得なくなったと思うのですが、その後はどのように構成を決められましたか。
青柳 2022年の段階で、選挙戦を追ったバージョンの映画は「水道橋博士の選挙クエスト」という仮タイトルでほぼ完成させており、年内に公開しようという話にはなっていました。しかし、おっしゃられたように博士がうつ病で休職されて、その後辞職となりましたので、博士がラストで当選してばんざいとなる作品では、公開しても意味がなくなってしまいました。
「水道橋博士の選挙クエスト」は、『選挙と鬱』の「選挙」の部分に該当しますが、『選挙と鬱』にまとめる過程でも、構成はまったく変えていません。ですので、「水道橋博士の選挙クエスト」に、辞職後の博士の道のりを見つめるというフェーズをつなげたものが、本作『選挙と鬱』になっています。
※構成・プロデューサーの大澤一生氏:補足しますと、『選挙と鬱』の「うつ」のフェーズが生まれたことで、完成していたバージョンのあるシーンの意味合いが、大きく変わったところがあります。それは、博士がうつ病の有権者の方の話を聞いて、博士自身もうつの体験を口にするシーンです。博士自身もうつ病と戦っていたということを観客に知ってもらおうという思いから、最初のバージョンでも入れたのですが、ただその時はほかのシーンとつながるわけでもないので、全体としては浮き気味だったんですね。しかし、「うつ」のフェーズを改めて加えたことで、がぜん重要なシーンになりました。
少し怖い話をすると、もともとあのシーンがあったことで、博士はうつ病になったのではないかとも感じます。映画が現実の博士を、どこかで引っ張ってしまったのではないかと……。じっさい、ドキュメンタリーを作っていると、映画が現実に強い影響を与えるような場面には、しばしば出くわすんですね。

