買収戦で対立する買い手同士が舌戦を繰り広げるのは、珍しいことではない。だが相手を「不法侵入」とまで表現するのは、筆者は聞いたことがない。「ヤゲオは招かれざる客ということか」とたずねると、貝沼会長はこう答えた。
「人の心が通じ合う上で、入り方は重要でしょう。だから僕は同意なき買収はしない。買収後、通じ合うまでに労力も時間も使うから。(ヤゲオは)芝浦電子に招かれていないという事実を率直に認めるべきです」
最高にイカツい布陣
「招かれざる海外客」を前に堅くタッグを組む両社の姿は経済小説のようだ。だが視点が違えば物語も変わる。ミネベアミツミと芝浦電子が心通わせてきた過程は、ヤゲオにとっては著しく不公平で、さながら不条理劇の展開であった。ヤゲオのチェン会長は筆者のインタビューで、次のように訴えた。
「これまで海外で何社も買収してきました。今回のように競合する買い手がいたケースもあります。しかしその場合も、機会はいつも平等でした。工場訪問は全ての買い手にさせる、戦略説明の機会も等しく与える。一番良い買い手を選んで株主価値を最大化することが、経営者の責務だからです。今回のような公平性に欠ける対応は、欧米では過去に一度もありません」
チェン会長はそれこそ「パーティーに招かれるために」、着実にステップを踏んできた。芝浦電子に関心を持ち始めたのは、実は4年も前だ。当時ヤゲオのFAだった野村證券に「協業意向を伝えて、面談をセットしてほしい」と何度も依頼した。だがこの依頼は、どうやら芝浦電子に届かなかったようだ。
※本記事の全文(約11000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年7月号に掲載されています(杉本りうこ「日台ガチンコ対決 買収王vs買収王」)。この記事では下記の内容をお読みいただけます。
