温度センサー・サーミスタ世界最大手の芝浦電子を巡るTOBが紛糾している。今年4月、台湾の電子部品大手・ヤゲオが、芝浦電子のTOBを発表。すると、この動きを阻止するために、日本の電子部品大手・ミネベアミツミが芝浦電子のホワイトナイトを引き受けたのだ。ミネベアミツミの会長CEO・貝沼由久氏がTOB阻止にかける想いを語った「文藝春秋」7月号の記事を一部紹介します。

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ヤゲオには「招待状がない」

 東京・汐留のミネベアミツミ東京本部。27階の会議室の窓からは、湾岸地域のタワーマンション群が望める。その景色を指しながら、貝沼会長は語気強く語った。

「こういう都心のマンションは、もう日本人には買えないんですよ。みんな外国人が買って、どんどん値段が上がっているから。うちの社員も買えない値段です。マンションは百歩譲って仕方ないとしましょう。でも、日本の技術を支える会社まで海外に買われていいんですか?」

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ミネベアミツミの貝沼由久会長CEO(撮影:穐吉洋子)

 4月10日に芝浦電子へのTOBを発表して以来、貝沼会長が再三訴えているのが、日本の技術流出に対する危機感である。買収を決断した最大の理由はもちろん、サーミスタの有力メーカーを傘下に迎えることが自社の成長に資するからだ。だが「予算オーバー」でも出馬に踏み切ったのは、「先人がこれだけ苦労して作り上げてきた技術立国が、資本の自由化という言葉の下に海外に買われていく。技術も配当も吸い上げられ、労働条件も海外に決められる。これは国益に反する」という思いからだという。

 ホワイトナイト発表後、貝沼会長は過去の買収にはなかった反響を感じている。商業ビルでエレベーターに乗ろうとした時、見知らぬ中年男性から「大変ですね。頑張って下さいね」と励まされた。芝浦電子の株主を名乗る人物から「どんな値段でも私の株は貝沼に売る」と電話でメッセージが届いたこともある。

(右から)芝浦電子の葛西社長、ミネベアミツミの貝沼会長、アドバンテッジパートナーズの笹沼泰助代表パートナー Ⓒ時事通信社

 特に意を強くしているのは、芝浦電子従業員からの熱狂的なまでの歓迎である。国内の事業所を訪問した際、現地従業員から割れるような拍手で迎えられたという。実際、芝浦電子社内のアンケートでは、従業員の9割超は、ミネベアミツミが親会社となることに肯定的だった。こういった芝浦電子からの声を受け、貝沼会長はヤゲオに容赦ない。

「パーティーにはインビテーションがなければ入れないのです。どんなに『僕がいればパーティーが楽しくなるよ』と言っても、招待状がなければ不法侵入でしかない」