「パンッ！ パンッ！ パンッ！」。放たれた弾は全部で7発。そのうち6発が命中し、犯人は即死…。前代未聞の法廷で起きた殺人事件。娘を殺された母親はなぜ犯人を法廷で撃ったのか？ 彼女の復讐を、ドイツ国民たちはどう評価したのか…？ 我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』（鉄人社）のダイジェスト版をお届けする。
◆◆◆
7歳の娘を殺害された母親の悲劇
1981年、西ドイツの法廷で衝撃的な出来事が起きた。7歳の少女を強姦・殺害した男に対し、被害者の母親が法廷で銃を発砲し、その場で射殺したのである。この事件は当時、世界中のメディアが報じる大きなニュースとなった。
事の発端は1980年5月、西ドイツのリューベックに住むマリアンネ・バッハマイアー（当時31歳）の娘アンナ（当時7歳）が行方不明になったことだった。捜査の結果、近所の肉屋に勤める常習的性犯罪者クラウス・グラボウスキー（35歳）が浮上。彼はアンナを自宅に連れ込み強姦した後、殺害し遺体を埋めたのだった。
「あなたのためよ、アンナ」――母親の法廷での確信犯的復讐
裁判が始まると、グラボウスキーの弁護人は彼が過去に睾丸摘出手術を受けていることを強調し、「彼には性欲がないので、これは性犯罪ではない」と主張。さらに「アンナが被告をゆすったので、とっさに首を絞めてしまったに過ぎない。もはや正当防衛である」と述べ、検事に謀殺を故殺に軽減するよう要求した。
法廷内に被告に厳罰を科すべきではないという空気が流れる中、第2回公判でマリアンネは傍聴席から立ち上がり被告席に近づくと、コートのポケットから22口径のベレッタを取り出し、グラボウスキーの背中に向け7発の銃弾を撃ち込んだ。彼が息絶えたことを確認したマリアンネは「あなたのためよ、アンナ」とつぶやき、静かに銃を下ろしたという。
殺人罪で起訴されたマリアンネは法廷で「司法がグラボウスキーに対してふさわしい罰を与えると思わなかった。私が自分の手で罪を償わせるしかなかった」と犯行動機を供述。彼女自身も幼少期から波乱に満ちた人生を送り、継父からの性的暴行や男性からのレイプ被害など、幾多の苦難を経験していた。
裁判所は1983年3月、マリアンネに過失致死と銃器の不法所持で懲役6年の判決を下した。3年後に仮釈放され、その後結婚と離婚を経験。1996年、膵臓がんにより46歳で亡くなる直前、北ドイツ放送の密着番組に出演し、グラボウスキー殺害に一片の悔いもないことを語った。
マリアンネの遺体は、リューベックのブルグトール墓地にある娘アンナと同じ墓に埋葬された。
◆◆◆
この文章の本編は、以下のリンクからお読みいただけます。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。
次のページ 写真ページはこちら
