「八つ墓村」を思い起こさせる峠からの眺望
犯行からすでに1年半以上が経過した今、積雪の多い片品村は2回目の冬を迎えている。村内の山や川に遺棄したとして、そもそも見つからないような場所を選んでいるはずだ。本当に何か発見できるのか――。
道幅は5m。はじめこそなだらかな登り坂が続いていたが、ほどなくして山道特有のヘアピンカーブが現れる。6~7回も急カーブを曲がっただろう。ようやく、7カ所目の「確認現場」である峠の頂上付近に到着した。後に、宇条田(うじょうだ)峠という名を知った。
左手に土砂崩れ防止のためのコンクリートで補強された山肌が迫っているが、山道との間には、車が縦列で数台並べられるスペースがある。右手には数メートル幅の路肩があり、残雪がうっすら積もっている。その先は低木や雑草が斜面を覆う崖である。
みぞれは山に入ってからも降ったりやんだりを繰り返した。車から降りて全員が峠に立った。峠からの眺望は、眼下を一望するというほどは見通しがよくない。ただ唐突に、ある情景が思い浮かんだ。時代劇のワンシーン……いや、違う。
それは、二十数年前の学生時代から何度も観た、映画「八つ墓村」の冒頭シーンを思い起こさせた。追っ手から逃れた8人の落ち武者がようやくたどり着いた峠に立ち、眼下の山並みと村を一望する場面である。考えれば、この事件解明のヒントを得た映画だった。不思議な縁だ。
「焼かれ、粉々にされて、こんな山奥の峠に棄てられていたのか……」
「焼かれ、粉々にされて、こんな山奥の峠に棄てられていたのか……」
たどり着いた高揚感と、憎悪に満ちた怒りが入り混じった、いわく言いがたい気持ちがこみ上げる。
しかし、感傷に浸っている時間はない。警察が十数年来追ってきた、「死体なき連続殺人事件」解明の突破口となる物証が見つかるかもしれない。いや、せめて、ここから撒き棄てられたという、1年半前の事件の被害者の遺物だけは、何としても見つけ出したい。
仕事としての領域はとうに超えていた。「何も見つからなかった」では済まないことも承知の上での決行だった。
さりとて、出たら出たで、いったいどのように進め、組み立てるのか……。
昨日から、もう何度も頭の中でシミュレーションを繰り返していた。あらゆる事態を想定していた。ただ結論は同じだ。――やるしかない。