「骨や持ち物を焼いた灰を、崖下に向かって撒いた」島崎は身振り手振りで説明するが…
三木(仮名)警部補が島崎に声をかけた。
「どのあたりに棄てたんだ。自分で示してみろ」
「岡崎(仮名)の骨や持ち物を焼いた灰を、崖下に向かって撒いた。その時、手前のこのあたりにドサッと落ちたのを覚えている。探してください」
島崎は崖側の路肩部分を靴で線引きしながら身振り手振りで説明した。
三木警部補の口調は荒っぽいが、無理もない。「どこに棄てたのですか、示してください」と訊くような経緯でも状況でもない。しかし、あくまで、任意の現場案内である。裁判官の捜索差押許可状も検証許可状もない。
できることといえば、掘り返したり、刈り取ったりしない範囲での検索と、島崎を立会人とした実況見分である。何らかの物証が見つかったら、その先を、その時点で判断し、適正な捜査手続きをとらなくてはならない。
捜査手続きが不適正であれば、何が見つかっても証拠能力は認められない。ドラマや小説の世界では描かれていない捜査の現実である。
はかどらない作業
島崎が示したのは、長いところで一辺約5m。イメージとしては、幅広のくちばしのような形の路肩だ。けっして広い範囲ではない。しかし、数cm積もった残雪が点在し、2年の間に生い茂っては枯れるを繰り返した草木が堆積している。
どう見ても、すぐに発見することは難しいだろう。ただ、いったん手を付けたら、中途半端に終わらせることはできない。
やはり、ここはいじらずに裁判官の令状を請求して出直すべきか。一瞬、迷ったが、気持ちを切り替えて指示を飛ばす。
「とりあえず、雪を除けて、枯れた草木を取り除き、この範囲だけ地表を出そう。根を抜く時、土を掘り返さないように気をつけてくれ。写真以外は全員でやろう。もし何かを見つけたら、その時点でストップするから声をかけてくれ」
ある程度覚悟はしていたものの、想像以上に作業ははかどらない。時間だけが過ぎていく。降ったりやんだりを繰り返していたみぞれが、再び降り出した。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。
