「将来、ボクは作家になりたいんだ」周囲の反応は

 なんだか、色々とうまくいかない。そんな気分でいたら、ジャックの姪だか甥だかいとこだかが、私に話しかけてきた。

『リョウ、夢はなんなの?』

 突然のハートフルな展開を許していただきたい。向こうからすれば、十四歳という若さでホームステイをしにくるこのタルイ人にはさぞ大きな夢があるのだろう、とでも思ったかもしれない。私は姿勢を正すと、姪だか甥だかいとこだかの目をまっすぐに見て、言った。

ADVERTISEMENT

『writer……将来、ボクは作家になりたいんだよ』

朝井リョウ『風と共にゆとりぬ』©文藝春秋

 今思うと、美しいやりとりである。カナダの素敵なお家、初めて出会った陽気な人たち、そこで明かす将来の夢――まるで絵本の中にいるみたいだな、と思ったとき、姪だか甥だかいとこだかがぱっと表情を明るくして、言った。

『rider!? かっこいい! リョウは車を運転するんだね!』

 姪だか甥だかいとこだか、ブンブンと言いながらハンドルをくるくる操る真似をし始める。おや? と思ったときにはもう遅かった。ジャックが『えっリョウはriderになるのが夢なの!? かっこいい夢だけど意外だね!』だかなんだか、目を丸くしている。その周りを、バイクを乗る真似をしている姪だか甥だかいとこだかが駆けずり回っている。

 違う、とは、もう言えなかった。

 私はその日、ライダーを夢見る少年という像を演じ続ける羽目となった。今こうしてライターとなり、あのころの日々を振り返りお金を稼いでいると知ったら、ウィリアムズ家の皆様はどう思うだろうか。オールオッケ~とまた笑ってくれればいいが、それを確認する術はもう持ち合わせていない。

◆ ◆ ◆

 朝井さんの海外での珍エピソードは、『風と共にゆとりぬ』『そして誰もゆとらなくなった』でも綴られています。

 明日は『そして誰もゆとらなくなった』よりエッセイを一本公開します。お楽しみに。

時をかけるゆとり (文春文庫 あ 68-1)

朝井 リョウ

文藝春秋

2014年12月4日 発売

風と共にゆとりぬ (文春文庫 あ 68-4)

朝井 リョウ

文藝春秋

2020年5月8日 発売

『そして誰もゆとらなくなった』文庫発売を記念して、朝井リョウさんによる「没ネタ成仏トークライブ2 ~Precious Memories~」を、2025年8月24日(日)14時~に開催いたします。

 

トークライブの会場参加の応募フォームはこちら

 

150枚限定の【抽選制】で、応募〆切は7月15日(火)正午までです。皆様のご応募をお待ちしております!

最初から記事を読む 朝井リョウ(14)が地元の姉妹都市・カルガリー市に“派遣”されたときのこと